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Voce d' Angelo レナータ・テバルディに捧ぐ

レナータ・テバルディの専門ブログです。情報、動画、鑑賞録など。

1954年のテバルディのスケジュール

大変長い間、お待たせいたしまして申し訳ございませんでした。今回から記事の更新を再開いたします。休業中も様々なご関心から、拙ブログをご覧下さいました読者の皆様には深く御礼申し上げます。

正直なところ、色々個人的な用事もございましたし、一つ一つの記事の記述に時間をかけておりますので、今度も事前に思ったほど動画や記事を用意できませんでした。

今日は例外的にこのような時間に投稿しますが、今後は、一シリーズは連日更新します(午前中の方が皆様には便利だとはわかっておりますが、午前中の更新は忙しすぎるので、断念せざるを得なくなりました。午後6:00過ぎから7:30くらいの間に新しい記事を載せます。)けれども、シリーズの終了後、3日間まとめて更新を休みます。その後、新しいシリーズを4日目に開始。このパターンでしばらく運営したいと思います。

今度は、最後のヴェルディ『レクイエム』に到達するまで、ブログの引っ越し、中断等はございません。更新を休んでいる間も、どうぞ、動画を鑑賞なさるなり、もう一度過去記事を読んで下さるなりして、お楽しみ頂けたら幸いです。多分、日本中(世界中?)探しても、テバルディの専門ブログって、これだけだと思いますので。

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さて、次回から1954年のテバルディのライブまたはスタジオでの歌唱の記録をご紹介するのですが、その前に、この年のテバルディのスケジュールもまた、呆然とするほど混んでいたことの確認を。

この年を最後に、彼女はスカラ座と袂を分かち、翌年からニュー・ヨークのメトロポリタン歌劇場に拠点を移します。いわば、祖国イタリアを軸足に活躍した最後の年でした。「あの方」の低迷後、スカラ座としてはテバルディを呼び戻したかったでしょうが、彼女はもう専属歌手として戻ることはありませんでした。

では、カレンダーを。8月は4つの演目をスタジオ録音していますが、Cronologiaに具体的な日づけの記録がないので、枠線で囲みました。実質は1演目に数日しかかけなかったでしょうから、この月は割合ゆとりがあったのではないかと。ですが、9月の公演はリオ・デ・ジャネイロでの南米ツアーの日程ですから、多分8月の上旬に録音を全部終えて、下旬は例のように船旅のための日程にあてたのでしょう。スケジュールの混み方は前年とほとんど変わっていません。

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個別の演目などのご紹介です。

1月7,10日 スカラ座 『オテッロ』 

15日 ナポリ サン・カルロ劇場 慈善コンサート “Vissi d’ arte”のみ 

16, 20, 23, 26, 31日 ナポリ サン・カルロ劇場 『運命の力

2月7,10,14日 ナポリ サン・カルロ劇場 『ラ・ヴァッリー』 

2月24,26,28日 ナポリ サン・カルロ劇場 『フィガロの結婚

3月2,4日 モナコ モンテ・カルロ 『トスカ』 

11,14,17,20日 ローマ歌劇場 『アンドレア・シェニエ』 

25,28,31日 4月3,6日ローマ歌劇場 『オテッロ

10日 RAI3向け放送用リサイタル マルトゥッチ 歌曲7曲 

14,19,21,24日 5月2日 ミラノ・スカラ座 『トスカ』 

10,13日 ミラノ・スカラ座 『エウジェニオ・オネーギン』 

14日 ミラノ ロッシーニスターバト・マーテル』 

15,18,23,30日 ミラノ・スカラ座 『エウジェニオ・オネーギン』 

31日 『ラ・ボエーム』 放送用録画 「ミミの死」

6月9,13日 ミラノ・スカラ座 『トスカ』 

7月3,6,10,15,18日 ナポリ アレーナ・フレグレア 『椿姫』

8月 ローマ デッカ スタジオ録音 『マノン・レスコー』 

ローマ デッカ スタジオ録音 『オテッロ』 

ローマ デッカ スタジオ録音 『椿姫』 

ローマ デッカ スタジオ録音 『トゥーランドット

9月2,5,11日 リオ・デ・ジャネイロ 『運命の力』 

17,19日 リオ・デ・ジャネイロ 『チェチーリア』

21日 10月2 リオ・デ・ジャネイロ 『トスカ』 

5,8,11,14日 リオ・デ・ジャネイロ 『オテッロ

11月4,7,13日 バルセロナ リセウ劇場 『運命の力』 

11,16,20日 バルセロナ リセウ劇場 『ラ・ボエーム

11月29日 RAI ローマ 『プッチーニ没後30年記念コンサート』

12月6,9,12,15,18,21日 ローマ歌劇場 『運命の力』 

26,29日 ナポリ サン・カルロ劇場 『ローエングリン

なお、翌年
1月2日に同劇場で『ローエングリン

同月31日にニュー・ヨーク メトロポリタン歌劇場で『オテッロ』でデビュー。


この年は、ほとんどもう歌い慣れた演目ばかりを歌っていますから、前の年ほどキツくはなかったでしょう。ただ、この年の録音から顕著になってくるのですが、あの見事な滑舌が乱れ始めるのです・・・。キャリア晩期のような、ボロボロの発声にはなっていません。声の状態は非常に良いのです。少し重みを増した分、声に厚みが出て、ただでさえビロードの声質がさらに丸みを増しています。むしろ、リリコ・スピントの役柄を歌うには理想的な状態になっていました。ですが、子音をきっちり出さなければならないところで流れることが増えてきたのです。原因はわかりません。疲れもあるでしょうが、やはり、デビューして10年も経ったからには、同じレパートリーを何回も歌っていると、ご本人にとっては新味が無くなるし、緊張感も減るでしょうから、つい不注意が起きるということも出てきたのでしょう。

それだけが原因ではないでしょう。推測でしかないことを書き綴るのはあまり良いことではありませんが、この年にはもう、スカラ座とは縁を切ることを決断しなければなりませんでした。自分が再開コンサートで歌ったまさにその場所から去らざるを得ない、そうでないと出演すること自体が息苦しいような状況になってしまったのは、彼女にとって不本意だったに違いないのです。歌手として十分な資質を持っていながら、祖国第一の歌劇場では歌いづらい雰囲気になった。キャリアが順調に伸びていくのがわかった頃のはじけるような嬉しさは過去のものだったのでしょう。それでも歌手として生きていくことを決めた以上、精一杯歌わざるを得なかった。そのぎりぎりの苦しい心境が表れているように思えるのです。

私は彼女の音源を幾度も聞いていますが、このブログを始めてからというもの、本当に微細な部分にまでこだわって聞くようになりましたから、こうしたことにも気づくようになったのです。ファンとしては本来は辛いことですが、私は鑑賞録を綴る際、気づく限り、そうしたところを指摘するつもりです。他の歌手を比較して引き合いに出す場合も容赦は無いのですから、彼女だけノー・マークということはいたしません。

録音は割合豊富に残っていて、1月スカラ座での『オテッロ』、7月のナポリでの『椿姫』、勿論4つのスタジオ録音、リオでの『トスカ』、プッチーニの没後30年記念コンサートの模様、そして、サン・カルロの『ローエングリン』をご紹介する予定です。

もう一つ、はっきりしてくるのは、スタジオ録音の時とライブの時の彼女の「温度差」です。初期の録音では、詳細に聞いた結果、大人しめだとはいえ、テバルディの録音としてはかなり役柄への没入度が高い方だとわかったのですが、この頃からスタジオでの彼女はクールな傾向になるのです。そして、今まで以上にライブの時との落差が激しくなります。スタジオでの彼女はあっさりした歌唱に終始しがちになる。(それでも表現の緻密な傾向は変わっていません。「効果音」や熱気のようなものが薄れてくるのです。)むしろ、この年からステレオ録音になり、テバルディの全曲録音、というとこの年のものからの録音が有名になってくるので、一般に広まった誤解が定着する原因になったのです。「テバルディは綺麗なだけでつまらない」という。そうお信じになっている方々には申し訳ありませんが、それは鑑賞の不徹底ゆえ起こる感想です。彼女自身にだけ原因があるのではなく、指揮者のせわしないテンポ、あるいはエンジニアの録音バランスの取り方ゆえ本来の彼女の歌唱の迫力が薄められている場合もあります。ともかく、テバルディの本質はライブでの彼女の歌唱を聞かないと決してわかりません。これだけははっきりしています。


では、次回からは1月7日、スカラ座での『オテッロ』の音源のご紹介に参ります。