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Voce d' Angelo レナータ・テバルディに捧ぐ

レナータ・テバルディの専門ブログです。情報、動画、鑑賞録など。

テバルディ チェトラ初録音シリーズ(3)

スタジオ録音 アリア集

今回は前回に引き続き、チェトラへのテバルディのSP録音から、1950年5月に録音された分の残りをご紹介します。

8. ヴェルディオテッロ』から

"Era più calmo?...Mia madre aveva una povera ancella,...Ave Maria"

 

ちょっと歌いまくりすぎているこの日の録音。チェトラのエンジニアに何か言われたのかな?(収録器機の感度が悪いんで、大きめに歌って、とか。)と勘ぐりたくなるくらいです。次は、何と、エミーリアの台詞から「柳の歌」を全部歌って、かつ、「アヴェ・マリーア」を別テイクで収録する、という注文がついたのですね!普通、"Mia madre aveva una povera ancella"あたりから入れば十分、と判断されるはずなのに・・・。ちなみに、私は二つのテイクを一つにつなげました。「アヴェ・マリーア」は少しピッチ(音の高さ)が上がっています。休憩でもしてからオケが調音し直した?

なお、ここでは誰がエミーリアを歌っているのかデータがありません。折角だからきちんと残しておいて欲しかったものです。

この歌は・・・歌いまくるような気分の歌ではないので、どうなることか?

入りは、指示らしい指示は殆どありません。"candida veste nuziale"で"zi"を頂点にクレッシェンドとデクレッシェンドの指示があるくらいです。この日は本当に「らしく」ないですね。肝心の"zi"が聞こえにくいです。

次。"Se pria di te morir dovessi, mi seppellisci con un di quei veli."頭に"con passione"の指示。そりゃ、この歌詞の内容は聞く方もグッと来てしまうくらいですから、ここを無感動に歌う歌手がいたとしたら、もうアウトでしょう。彼女の声質も寄与していますが、悲しみと優美さが同居しています。最後の"veli"は声に暗いトーンが入っています。

"Son mesta tanto, tanto."は最初の"tanto"の"tan"を頂点にクレッシェンドとデクレッシェンド。ここの最後の"tanto"は絶妙です!殆ど泣いています。やっとテバルディらしい歌が聞けた、という気分です。

その後は"Recitativo"の記載。その他に指示はないです。しばらく。

"amava un uom che poi l’abbandonò." は少々厄介で、ずっとポルタートの指示があります。スタッカートほど切ってはいけないが、レガートで歌ってもいけない、という・・・。柔らかく区切るというのか・・・。こういう指示を歌唱で守れというのは・・・無理じゃないかと。

"Io questa sera..."は"marcate"の指示が。「強調して」ですから、くっきり歌わないといけないのですね。もうすこし強調気味でも良かったと思います。それからは"quella"あたりを頂点にクレッシェンド、デクレッシェンド。最後の"cantilena"の"lena"は"morendo"なので、段々弱くしていかなければなりません。テバルディの歌は指示通りですね。特に"lena"の消え入り方は素晴らしい。

柳の歌に入ってからはしばらく指示がないのですが(細かく言えばポルタートなどはありますが)キツイのは"O Salce! Salce! Salce!"です。"come una voce lontana"「遠くから聞こえるような声で」かつ、pppですからピアニッシッシモ。うーん、テバルディ、ちょっと音量を落とし切れていないかな?でも、彼女の普通の声の大きさから言ったらこのくらいなのかも知れません・・・。「遠くから聞こえるような」は、むしろ、録音に変なエコーがかかっているのでそう聞こえます。(私はエフェクトをかけていません。音量レベルを上げただけです)。

次の"Salce"が来る前に、"testa"の"sta"を"portando"しろ、という指示。だから、テバルディは「スタアアアア」と引っ張りながら段々音程をあげています。次の"Salce! Salce! Salce!"は前のよりはましです。最初の"Sal"をフォルテで、デクレッシェンドして二度目の"Salce"をピアノで、三度目の"Salce"をピアニッシッシモにせよ、と。(どこがまし???)この日の収録の出来は彼女としては絶賛ものではないのに、この曲はさすがですね。見事にスコア通りです。

"Cantiamo, cantiamo!"で、来ました!また"dolce"!しかも二度目のCantiamoは"più piano"なので、一度目より小さく歌うのです。テバルディの声はちゃんと小さくなっているのが、ソフトの波形を見るとわかるのですが、聞いていると微妙ですね。"il salce funebre sarà"は"bre"を頂点にクレッシェンドとデクレッシェンド。テバルディの歌はその通りです。最後は非常にソフトで優しい"ghirlanda"になっています。こういう風に歌ってくれるので、じーんときてしまうのです。

その後はレガートで続けたと思ったらアクセントがついていて区切ったり、と色々注文が付いていますが、それほど無茶なことは要求されていません。テバルディはレガートでつなげるところは見事につないで、きちんと切れ目でブレスを入れています。(といっても、どこで息を吸っているのか、ほとんどわからないですが・・・)

"onda del pianto"の終わりはまたポルタメントです。"portate"と書いてありますが・・・記号はポルタメントになっていて。。。テバルディはポルタメントで歌っています。これも一度目の"Salce"がフォルテ、二度目がピアノ、三度目がピアニッシモ(pppよりはいいですが)で、今度は最後のに"come un' eco"「こだまのように」という指示。これも難しい。テバルディの音量は見事にスコア通りです。「こだま」のほうは、やはり録音の具合でそう聞こえているところもあります。

"Cantiamo, cantiamo!"のあたりは、最初出てきたときと全く同じ歌い方が指示されています。こちらの最初の"Cantiamo"がどうもくっきり聞こえないのですが、次の方で次第に弱まっているのはかろうじてわかります。"Il salce funebre sarà…"は一度目と同じ見事さです。

次は問題。また"dolce"が来ているのですが、"Scendean l’augèli a vol dai rami cupi"までレガートで歌わなければならないはずなのに、テバルディは明らかにスタッカートで歌っています。この問題は数年続いていますので、多分彼女は最初にスコアを覚えたときここを間違って覚えたのでしょう。後年になると、ここがレガートに修正されています。

"E gli occhi suoi piangean tanto, tanto, da impietosir le rupi."は、"con espressione"(感情を込めて)です。そして、二度目の"tanto"までクレッシェンド。"tanto"はアクセントが付いているので、区切って、くっきり歌わないといけません。ご丁寧に"marcato"と文字でも書いてあります。テバルディはやや激情気味に歌っています。かなり強めに。「岩も哀れを催すほど」なのですから。

"Povera Barbara!"はメゾフォルテの指示。ちょっと・・・それ、フォルテじゃありません?その後急に、"Solea la storia con quest semplice suono finir:"でピアニッシッシモです。忙しい歌だ・・・・。こちらはその通り声を落としていますね。

次の難題は"io per amar"。"dolcissimo"の指示があり、ポルタートで"io per a"まで歌って、"mar"はピアニッシッシモでかつ、"morendo e troncando"「弱めていって、途中でぶっつり切る」のですね。それはそうです。彼女には風の音が誰かのうめき声に聞こえて、恐ろしくなって歌うのをやめるからです。ここはお見事!ポルタートは微妙ですが、これ以上"dolcissimo"で弱音に落としていくって、なかなか出来ることではないでしょう。

エミーリアとの少々興奮気味のやりとり(指示はありません)が終わった後、また歌い始めますが、またしても"dolce"。""Io per amarlo e per morir." "lo"に入る直前までクレッシェンドで急速にデクレッシェンド。ここの彼女の歌はまさにその通りです。次はまたしても"dolcissimo"で"Cantiamo!"次、"rall"なので、"rallentando"で"cantiamo!"テンポを緩めるのですね。緩めているというより、急いでいるような・・・。ここもこの問題が続くので、最初の習得の時、間違えたのかも知れません。

"Salce! Salce! Salce!"はまた厄介。ピアニッシッシモで、また"come una voce lontana"。どうやって歌えば?うーん、ピアニッシッシモにはなってないです。このときは、頭からですから。しかし・・・普通、スタジオ録音って、スコアを前に歌うはずなんですが、彼女は記憶ベースで歌っていた???そうなると、勘違いが入っても無理はないです。

そして、エミーリアと別れる場面が来ます。"Come m’ardon di ciglia"が涙混じりなのは出色です。"Buona notte."あたりまでは特に目立った指示はないですが、とにかく、例の"Ah! Emilia, Emilia, addio! Emilia addio!"はフォルテで"con passione"という指示。いやーーー。チェトラの貧弱な録音機器が崩壊しそうなほどの声です!エミーリアが10kmくらい離れていても聞こえそうな・・・。それ、フォルテじゃないでしょ。カタカナに直すと間違えそうなので記号で書きますけどffffffって言うんじゃありません?

"Ave Maria"に入ると、最初に注目すべきは"Gesù."の最後。"su"がフェルマータで、ポルタメントになっています。テバルディの歌はその通りです。ここのお祈りの唱え方については、次回別項を設けてちょっとした解説をしたいと思います。

テバルディの歌は、悲しみに彩られた「柳の歌」から清澄でむしろ明るめの響きに変わります。そのパターンは変わらなかったように思います。

"Prega per chi adorando a te..."と始まる部分は"cantabile"でまたしても"dolce"(!)次の"Prega pel peccator"にも"dolce"。"dolce"中毒になりそうなスコアです・・・。

テバルディのフレーズの区切り方は、スラーの付き方と完全にマッチしているので、文句の付けようがありません。"Prega per chi sotto l'oltraggio piega la fronte"。"oltraggio"の"trag"を頂点にクレッシェンドし、ディクレッシェンド、かつ、"marcate"なのでくっきり歌っています。ディクレッシェンドする部分は"animando"なので「活発に」ですが・・・。お祈りの歌で?・・・ともかく、その指示のある"piega la"あたりまではテバルディはくっきり、強めに歌っています。(ちょっと強すぎますが・・・)そして、段々弱くしています。

"per noi, per noi, tu prega"で、また"dolcissimo"・・・。こんなにしつこく書かないと「優しく、甘美に」歌えない歌手ばっかりだったんでしょうか?この日のテバルディは、入りはいいのですが、(実に美しい!)最後の"tu prega”が少々大きすぎますね。

"prega per noi, prega per noi,"は、両方とも、"prega per"がポルタート。"prega!"は大変。"dolcissimo", "allargando", "morendo" ピアニッシモ、デクレッシェンド、とご丁寧に5種の指示が付いています!完璧にこれをやれているときもあるのですが、このときはやはり、声が少々大きすぎる。

極めつけの"A--ve!"は"dolcissimo"の指示。やっぱり、録音がある程度ハンデになっていますね。いつもより声が大きめだし、最初の「アーアーアー」で音程を変える部分が綺麗に収録されておらず、きしって聞こえるのが残念です。"ve"は、それでも、この録音としては鳥肌ものの美しさです。テバルディはピアニッシモで15秒くらいブレスなしで歌い続けられるのが普通でした(全盛期の話ですが。)この"Ave!"は13秒ちょっと続いています・・・。絶句。

9. ボーイト『メフィストーフェレ』から"L’ altra notte in fondo al mare"


これも幾度となく彼女が歌ったアリアです。

こちらは極めつけの「暗」のテバルディ。子殺し、母殺しの罪で牢に入ったマルゲリータが正気と狂気の間を揺れ動きながら歌う歌。

入りには何も指示なし。"bimbo hanno gitta"までアクセント記号がついてきます。うーん、なめらかに歌いすぎ。その後、"or per farmi delirare dicon ch’ io"のフレーズで、"deli"あたりからクレッシェンドし、"ra"でフォルティシモの指示。デクレッシェンドがないので、歌手の判断で声を落とすしかないですね。フォルティッシモは・・・言うまでもなく、完璧に決めています。テバルディは"dicon"あたりから落として、"ch’io"には強勢をつけています。「私を!」(狂わせようとして)と抗議の意志を表しているように響きます。"l’ abbia affogato"はむしろソフトに歌ってから、最後に音高が上がるのに合わせて声を強めています。「溺れさせた」をソフトに歌われると・・・コワいですね。それが、何とも言えない効果をあげています。(ここには指示がないのです)

"Laure fredda, il carcer fosco"の"fredda"は本当に冷え冷えとした牢の寒さに震えているように聞こえます。"carcer"は少々強いような・・・。「牢」と"fosco"「暗い」に落差をつけて、"fosco"が暗ーく聞こえるように配慮したのかとも考えられますが、彼女なら、声色でも十分それが出来たので、ここまでしなくても良かったかなと。

"e la mesta anima mia"は本当に落ち込んでいるように聞こえます。"come il passero del bosco"と微妙に音色が違うのです。後者は少し明るくなる。

"vola"の連続はいろいろ速いパッセージのヴァリエーションがついていますが、実はスコアだと"vola"は"vola via"を含めて5回しか出てこないのです。歌いにくいので1回足したのでしょう(そういうことをしていいのかどうかは・・・別として)。とにかく、テバルディにとっての鬼門は"vola via!"の時の"vola"をトリルで歌わなければいけないことでした。彼女は・・・トリルで歌えたためしがありません。残念ですけれど、むしろ、変にゆらゆらさせないで豪快に無視して欲しかった、などと思ったり。"via! Ah! di me pietà!"は強烈に入って、"pietà"で沈むのが彼女のパターンでした。最後の"pietà!"の絶望的な暗さとすがりつくような感覚。ここ、1点ニ音まで沈みますが、テバルディの場合、どっしりした声が出ていますね。

スコアを見てきて思ったのは、ボーイトの場合、ヴェルディプッチーニと違って、強弱記号や表現指示が殆ど何も書かれていない・・・な、ということです。だから、自由に歌えるのかも知れないけれど、(fなのにffffffで歌ってるじゃないか!なんて、文句を言われなくて済む)これはこれで暗中模索なのかな、とか。この問題も次項でちょっと書いてみたいな、と思います。

次、"In letargico sopore è mia madre addormentata."なぜかスコアでは"in funereo sopore"になっているのですが・・・。改訂されたのでしょうか。私は持っていないスコアはネットで入手したものを使っていますので、いつの版かわからないのです。とにかく、ここでは"mia madre"の柔らかい美声と、"addormentata"についている、息をのんでいるような、何とも言えない表情に驚かされます。この日の録音は声が大きすぎる、とさんざん書いてきましたけれど、無表情な歌を歌っているわけではないことは確かで、そこが彼女の素晴らしいところです。

"colmo del l’orrore dicon ch’ io"ではやっとまた、強弱の指示が出ます。"del l’ or"あたりまでクレッシェンドし、"ro"でまたフォルティッシモ。またその後はボーイトさん、特に指示なし(!)。テバルディは心ゆくまで(?)立派な巨声を響かせた後、また"ch’ io"で強勢をつけて、挑むような表情づけ。

"l’ abbia attoscata"は、"attoscata"で恐ろしげに声を震わせ、最後にまた声を強めます。"L’ aure fredda, il carcer fosco"今度も寒い、という表情はついていますが、一度目ほどではないですね。また"carcer"が大きめに歌われています。"e la mesta anima mia"は、"mesta"が言葉通り暗く沈んでいる上、今度は"anima mia"にも感情移入が。少し強勢がついています。確かに彼女はファウストの誘惑に負けたのですが、母親を殺したり、子供ができてしまってそれを溺死させる羽目になるとは夢にも思っていなかったのですから、「なぜ?」という、不本意な感情があるに違いないのです。それが、"ch’ io"とか、この「私の魂」という言葉に強勢を置いている意味ではないのかと。「どうして「私」がこんな目に?」と。

さて、また"vola"のヴァリエーションの始まりですが、ここは大変。一小節に5個の"vola"が詰め込まれていて、そこをめまぐるしく音程を上下させるのですから・・・。文字で表すと・・・。

(8分音符x1)+(32分音符x4)+(8分音符x1)+(32分音符x4)+(8分音符x1)+(32分音符x12)+(4分音符x1)+(16分音符x24)+(8分音符x1)+(16分音符x2)+付点8分音符+16分音符で1小節。

装飾音譜を大量に入れたいとき、作曲家は拍子をまたいでこういうことをするのが許容されているらしいのですね・・・。(通常の計算だと、入り切りません。)ともかく、異常に長く感じる"vola"は16分音符が24個ある部分で、頭にフェルマータがついているのを、テバルディはちょっと長すぎるくらい延ばしているのです。本来、1小節で書いてあるので、ひとつの音譜の長さをどう扱うのか???悩んじゃいますね。

その後は8分音符一つでトリル。できていませんが・・・。こういうスコアなので、トリルの入る前の"vola"が妙に長いのですね。それを彼女は強烈に歌っています。そのまま"Ah!(ここにもフェルマータ)"まで強力に歌い、"di me pietà!"でまた、暗く沈みます。

 

次項は前述のとおり、『オテッロ』の"Ave Maria"の入りについて書いておきたいことと、スコアの指示の問題について思ったことを、一項設けて書こうと思います。それに、"L'altra notte"の件も。