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Voce d' Angelo レナータ・テバルディに捧ぐ

レナータ・テバルディの専門ブログです。情報、動画、鑑賞録など。

スコアの指示と実際の歌唱

この話題は・・・いろいろと書かなければならないことが発生しましたので、どういう順序で行こうか悩むところですが、まずは、ここから始めます。

●ボーイト先生 "L'altra notte" その通り歌うと・・・

お気づきの通り、今回ブログを再開するに当っては、私は極力スコアを確認しながらテバルディの歌を聞くようにしています。全てが彼女の工夫によるのではなく、スコアの指示に従ったら必然的に素晴らしい効果が生まれた、という場合も沢山あるのですから。歌手個人の判断で表現に工夫すると言っても、限度があります。

それで、チェトラの初録音も今回はやかましくスコアの指示がどうの、というお話しに沿いながら綴って参りました。そうすることによって、今回の発見も生まれたのです。(とっくに周知の事実だったとしたら、事々しく取り上げて申し訳ございません。)

私が参照したのは1880年リコルディ版のヴォーカル・スコア(英語併記)のものですが、間違いではないにしろ、ちょっと装飾を詰め込みすぎでは?と。実際にMuse Scoreというソフトでボーイトの書いたとおり楽譜を写しましたが、拍子をまたいだ装飾は普通はじかれてしまうので、厳密には彼の書いたとおりにはなりません。Muse Score は良くできたソフトです。(Ver.2)フリーで、ダウンロードできますが、作曲でもなさるとか、私のように作曲家の曲を検証するなどという酔狂な考えでもお持ちでない限りは無用のソフトでしょう。

これで、"L'altra notte"をきっちり、書かれているとおり丸写ししたところ、装飾のためだという前提がない限り、通常に計算すると、例の"vola, vola..."は勿論、その前の"vola, vola"も1小節では入りきらないほどの音符が書き込まれていることがわかりました。また、このソフトはスコアを書くと、MIDI音(ピアノ)で書いたとおりに演奏してくれ、音を指定のファイル形式で保存できるのです。

動画だとあっという間に消えてしまうので、ご参考に"vola, vola..."の2カ所の部分の画像を貼り付けます。上がボーイトのスコア、下がソフトを使って私が書いたスコアです。

・一度目

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・二度目

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音譜が多すぎるんじゃ。。。ということよりも、トリルの部分や、直後の装飾音の臨時記号がおかしいことに気づきました。このあたりのことは、よろしければ次の動画でご覧下さい。ソフトによる演奏付きです。(ここでしかご覧になれません。ご承知下さい。)

 

結局、テバルディに限らず、歌手達は指導者と相談して、明らかにおかしいところは修正して対応していた模様です。トリルはともかく、速いパッセージの部分を(といっても、全体にスロー・テンポの曲ですから・・・。)テバルディは比較的正確に歌っていたこともわかりました。

こういうこともあるんだ・・・と、少なくとも私は、大変驚きました。

それにしても、優れもののソフトとはいえ、スコアにべったり従っただけの演奏がいかに味気なくて、演奏家や歌手など、人間の情念が入ることによって始めて音楽が生きることを、はからずもこのソフトの演奏は教えてくれている・・・そう、思われませんか?


ヴェルディオテッロ』"Ave Maria"の導入部の歌い方

 私は、長いこと、"Ave Maria, piana di grazia, eletta fra le spose e vergini sei tu..."に始まる導入部のテバルディの心地よいリズムを伴った祈りの唱え方が気に入っていましたし、彼女が特にアクセントをつけるように個人的に気遣っていたのだろうと思っていました。

今回からスコアを参照するようになって、彼女はやはり、スコアの指示通りに歌っていたというよりは、彼女自身の判断で強調をつけ、心地よいリズムを生んでいたことがわかりました。本当に楽譜通りにしてしまうと、全く味気ない代物になるのを、またしてもMuse Scoreで再現してみてわかりました。

(というわけで、こちらもスコアをソフトに打ち込んでいったところ・・・何と!ヴェルディ様は明らかなミスを・・・。"Ave Maria"という最初の小節、休符が付いてから(8分音符x3)+(4分音符x1)+(8分音符x3)になってますが・・・これはいくら数学恐怖症の私でも明らかにおかしいと。4分の4拍子ですから全音符1個分しか入れられません。8分音符は全音符の8分の1。それが6個。4分音符は8分音符2つ分。つまり、音符だけでこの小節、目一杯使ってるので、休符の入る余地はないのです!

しかも、"vergini sei tu"の"tu"は8分音符で書かれていますが、これも入り切りません。16分音符でないと。休符の所はやすまなければ効果が出ないので、無理に入れるわけにはいかないし。これは・・・装飾を沢山入れたいから拍子ををまたいだ、という言い訳は効かないのでは?)

下にこの部分のスコア画像を貼ります。このとおり、微妙に音符の長さに違いがついています。(おまけに、Muse Scoreで打ち込んだ導入部の画像を。少なくとも、音程は間違いないはずです。)それはそうなのですが、この通りにすると・・・楽しくないのです。

 

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ここは歌手によって歌い方が微妙に違います。次の動画をご覧下さい。テバルディ、スコット、フレーニ、カバリエ(もう引き合いに出したくはなかったんですが・・・主なイタリア・オペラの歌い手となるとこの人達を出さざるを得ず。。。)が同じ部分を歌っている音源をつなげたものです。最初に、おまけにスコア通りMuse Scoreが演奏したのを付け加えました。味も素っ気もありません。まるで削岩機の打ち込み?


テバルディについてはSP音源なので少々大きめに調整した結果、大きく聞こえますが、他意はありません。テバルディの場合、"ria"の長さはもうちょっと必要だったかな、と。"spose"を長めにするのが彼女の特徴でした。それから"sei tu"の"tu"は延ばすのが彼女の特徴です。(実はここを延ばすのは正しくないのですが・・・ヴェルディ様のお間違いで・・・。)"o, bene"はもう少し長めが良かったですね。"materne"や"viscere"はむしろ単調になりがちの所を長めに歌って妙味をつけています。"viscere"の最後が長いのはスコア通りですが、彼女はむしろ全体に長めに歌っています。"Gesù"のポルタメントの美しさも特別のものがあります。

スコットは"Ave Maria"はいいのですが、次が急ぎすぎですね。同じように歌うはずなのに。"tu"は延ばすのをやめたのでしょう。ヴェルディ様の間違いなので。"o benedetta"は・・・どうも長めの前半と早めの後半の違いがわかりにくい。"viscere"の最後も消していますね。(故意に?)"Gesù"のポルタメントは・・・ヴィブラートが強すぎてちょっと綺麗には聞こえないですね。まぁ、彼女のが一番楽譜に近い。でも、おかげでブツブツつぶやいているような、つまらない導入になっていると思いませんか?

不思議なのはフレーニ。どうしてこの人は時に、熱でもあるようにダルそうな声を出すのでしょう?まさにこれがそうです。"Ave Maria, piena di grazia"はかなりスローですが"fra le spose"が急ぎ足ですね。彼女も"tu"は長めに歌っています。(本当は間違いですが。)せっかく長い"o benedetta"を生かし切れていないのはテバルディと同じです。彼女も"viscere"は長め。"Gesù"はちょっと声が薄くなっているような。

カバリエは・・・前半"vergini sei tu"までがのろい。"sia benedetto il frutto"は早口。彼女は"o benedetta"をスコア通り長めに歌えています。これはいいですね。"di tue materne viscere"も早口。"re"は楽譜通り、長めです。ポルタメントはテバルディに迫るくらい綺麗に歌っていますね。

結局四角四面にスコア通り歌うと面白くないので、歌手はスコアに合わせるところは合わせ、歌に味わいを加えるために工夫しないといけないのですね。誰が一番お気に召すかは皆様のお好み次第です。私は断然、テバルディ式が最高、です。(当たり前か・・・ファンなんだから・・・。)

 ●スコアの指示にどこまで従うのか?

 そんなことは、リスナー側がどうこう言う問題ではないでしょう、というご意見もあるでしょう。ですが、上記のような例もあるように、あまりにスコア通りに歌うと機械的な歌になってしまうのです(勿論、PCソフトに"dolce"などの指示を反映した演奏はまだできないということもありますが、声のトーンなどで色づけが必要なことは言うまでもありません。)

逆に、"come una voce lontana"(遠くから聞こえてくるような声で)とか、"come eco"(こだまのように)などと書かれたりしても、歌手は困ってしまうでしょう。一体どういう声がその表現に当るのか???

ポルタートが歌唱に使われるのも私にとっては???です。人の呼吸を使って音を出す場合、「微妙に切りつつ、かつレガートで」っていうのは無理でしょう。この指示は弦楽器には有効だと思います。弓の巧みなさばき方で、スタッカートとレガートの中間のような音は出せそうですから。でも、歌唱や管楽器でそれをやれ、と言われてもね・・・。と。

スコアに書かれている以上、その指示は極力守るべきなのでしょうが、あまりにも困難な注文について、歌手が実現できていないからといってやいやい言うのも酷なのかな、という思いもあります。

フォルテやピアノの指示についても、実は微妙なのですよね、と思います。テバルディにとってのフォルテがffffffだとしても、他の、非力な歌手にとってはmf位を出すのがやっと、という場合だってあるでしょう。たとえば、フォルテは何デシベルまで出しなさい、という厳格な計測上の規定があるなら別ですが、そういうのはないのですから、これは相対的な問題であって、絶対正しいフォルテとかピアニッシモなどというのは・・・実はないのですよね。

それでも、私は今後も極力スコアを参照しながら音源を聴いていくことに変わりはなく、そこにどういう指示があって、それに対して実際の歌唱はどう感じるか、私なりの感想は書いていこうかな、と、今は思っています。勿論、全く別のご感想を抱く方もおいででしょうが、少なくともスコアにはどういう指示がなされているか、お伝えするべきだとは思っています。

ただ・・・オペラ歌手にとっては、超人的な記憶力でもない限り、「この単語にはアクセントがついていたわよね」とか考えて歌える人っているのかな、と。ライブではスコアとにらめっこしながらステージに立つということはできませんから・・・。結局、一度覚えた歌い方に、その日の歌手のノリや相手、指揮者の傾向など、特殊な事情が加わるのですから、ライブの場合は特に、厳密にスコア通りになっていないからといって細かいことをあげつらうべきではないのだろうな、と思います。

 

雑談じみてはいましたが、大事な事柄だと思いましたので、一項設けさせていただきました。なお、明日はテバルディの誕生日ですので、記念の記事を投稿する予定です。