読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

Voce d' Angelo レナータ・テバルディに捧ぐ

レナータ・テバルディの専門ブログです。情報、動画、鑑賞録など。

1949年 ミラノ・スカラ座での『アンドレア・シェニエ』

LIVE アンドレア・シェニエ

今回は、アリア・リサイタルではない、オペラのライブ録音に関して、私の手元にあるテバルディの歌唱の一番古い録音をご紹介します。

1949年3月6日、ミラノ・スカラ座で行われた、ジョルダーノの『アンドレア・シェニエ』の上演の録音です。これはRAIがラジオ中継した模様ですが、一部しか記録されていません。とにかく、第四幕は全く欠けていて、それが本当に残念です。

その他の幕も、ご紹介した部分がほとんどで、あとは、もう少し第三幕の模様が残っています。フェドーラ・バルビエーリのマデロンのアリアと、パオロ・シルヴェーリの"Nemico della Patria?!"の歌唱です。バルビエーリのマデロンはそれなりに立派なのですが、ちょっと不安定に聞こえたので割愛しました。また、シルヴェーリのアリアも・・・つい私の贔屓のエットレ・バスティアニーニの歌唱と比べると活力と熱っぽさに欠ける印象があって、割愛しました。

後はほとんど、ここにご紹介した部分しか残っていません。それにしても、もとが放送音源だったらしいこともあり、この年の録音としては非常にクリアーに聞こえます。

ここでのテバルディの歌唱は、彼女のベストとは言えないと思います。ですが、さすがに若々しい美声と張りのある力強い声が聴けます。

なお、私は市販されている間にこのCDを入手できませんでした。(MYTOから出ていたそうです)この音源はある外国のサイトから購入したものです。そのサイトはどうやら個人が運営しているらしく、注文をさばくだけでもてんてこ舞いの様子でした。私が一度に複数アイテム注文したら、納期を過ぎても連絡がなくて、督促メールを出したら無愛想な返事が返ってきました。あまりお勧めできないサイトなので敢えてご紹介しません。どうしてもお知りになりたい方はコメントを頂ければそちらでお知らせ致します。

録音データは、収録日:1949年3月6日、指揮:ヴィクトル・デ・サバタ、演奏:ミラノ・スカラ座管弦楽団、出演:アンドレア・シェニエ:マリオ・デル・モナコ、マッダレーナ:レナータ・テバルディ、ジェラール:パオロ・シルヴェーリ他です。

1. ジョルダーノ 『アンドレア・シェニエ』 第一幕 抜粋

 

まず、第一幕からの抜粋。伯爵夫人(エベ・ティコッツィ)に促されてもシェニエは詩を披露しようとしません。そこで、まだ、貴族の娘として何不自由ない暮らしをしていたマッダレーナが軽薄そのものに、かまをかけたらシェニエが「愛」という言葉を口にするかどうか試した結果、思惑通りになったけれど、却ってシェニエにたしなめられる場面、です。

とにかく、ここで感嘆するのはデル・モナコの歌いぶり。ブラーヴォ!と言うしかない歌唱です。彼は柔軟な歌い手とは言えなかったと思いますが、これほど強靱で輝かしい声のテノールは他にそうはいません。よくあることですが、1950~60年代のデッカのイタリア・オペラのCDに親しむと、デル・モナコバスティアニーニ、シエピ、コレーナ、シミオナート、そしてテバルディのファンになってしまうことになったりします。私などはまさにその一人です。

最後の彼の、"amor, divino dono, non lo schernir, del mondo anima e vita e l’ amor!"の一節は熱と力に満ちあふれていて、会場からどっと拍手が湧いたのも無理もないと、いささかの疑念もなく頷けます。(フォルティッシモの指示は書いてありませんけど・・・。)彼はジョルダーノ自身に「わがシェニエ」というサイン入りの写真をもらったらしいですから、作曲家も公認した歌いぶりなのですね。この役を満足に歌える歌手は彼らの時代を過ぎたら全滅したと私も思っています。そして、やはり、シェニエに関しては、コレッリよりデル・モナコかな。と。

2. ジョルダーノ 『アンドレア・シェニエ』 第二幕 抜粋


次は、第二幕から。ここはほとんどこれしか残っていません。いきなりテバルディのマッダレーナがフェードインで入ってきて、そのままシェニエとのやりとりになります。デュエットが残っていたのは幸運でした。

ハ長調で4分の4拍子。基本の基本みたいな・・・。この直前からテンポが♩=63になっています。マッダレーナの"amor"は大した高音ではありません。2点ヘ♯。全音符一個分と4分音符1個分延ばすことになっていますが、もっと延ばしているような・・・。この辺の間の取り方はライブではどうこう言う問題ではないことは前回書いたとおりです。しばらく歌い方に指示はありません。"Eravate possente…"あたりから"Cantabile"と。ジョルダーノのスコアを見ていると、今度は彼はテンポの指示がやたらと多いな、と。頭には♩=60とありますが、やれ"rallentando"だの、"a tempo"だの、"affrettando"だのと。「ゆっくり」「元のテンポで」「速めに」というわけですが、"ma non l’ osai"「(シェニエに会いたかったけれど)思い切りがつかなくて・・・。」というあたりからは♩=84だとか。かと思ったら、"Ed io vi vedeva"からは♩=54で、"Ed allora scriveva…"からは♩=76・・・。それでいて、強弱とか、歌い方の指示は全く書かれていないのです!テンポが曲調を決める全てだ、と思っていたとか?"Al mondo Bersi sola mi vuol bene"からは二分音符が基準に、一分間92拍という指示。(普通は私は♩で書いていますが、一分間で四分音符○○拍、の意味です。今更ですが。)ここで、やっとピアノの指示も出ます。かくまってもらっていることを話すのですから、小声にするのは頷けます。しかし・・・テバルディさんはそのままで歌いまくってますね。小声になるのは"Ed ho paura!"あたりからです。「怖いんです!」だからこれでいいのではないかと。実際のピアニッシモの指示は"Proteggermi volete?"についています。(二分音符=42拍の指示も!)"Spero in voi!"でフォルテにしろ、とは書いてありませんが、テバルディはフォルテで入って、デクレッシェンドしています。楽譜に書かれていないのに・・・でもあまりに美しいから、文句は言いたくない・・・。

シェニエの番が来ますが、ここでまた二分音符=40の指示!!!テンポ・マニア?"tranquillo e dolcezza"の指示もあるので、デル・モナコも極力優しく頑張って(?)歌っています。この後もテンポの指示がほとんどと申し上げておきます。これ以上書くの疲れましたので・・・。結局、強弱や歌い方は歌手任せ?と思ったら、シェニエの2度目の"Fino alla morte insieme!"にフォルテの指示が。デル・モナコにこんな指示、必要ないでしょう。テバルディの"Ah! Ora soave, sublime ora d’ amore"には何の指示もないのです。(テンポの指示はごちゃごちゃ、いろいろあるんですが)だから、この"soave"そのままのピアニッシモからクレッシェンドして"sfida il terrore"に持って行っているのは、この日の彼女の気分か、何かでしょう。とにかく、素晴らしいです。それは言えます。そして、謎の指示。"Mi fai puro il cuore"をピアニッシモにしろ、と。「心を清めるわ」ってちょっと覚悟がいると思うのに、そんなに自信なさそうにひそひそ歌うんですか?ジョルダーノ先生は・・・。どういう考えで?テバルディは特に弱音にしていません。その後、二人のデュエットになっていきますが、ここも謎。"Ora soaaaaaaave!"がフォルティッシモの指示なのは「当然でしょ」と思いますが、その後、"Fino al morte"には指示がなく、肝心の"insiem!"にピアニッシモの指示が!!!何でしょうね、このスコア???この巨声コンビの場合、勿論、こんな指示は「とんでもないこと」でした、んでしょうね。"Fino al morte"を控えめにした後は思いっきり、フォルティッシモで"insieeeeeeeeeeeeeem!"。これが当然じゃないかと。スコアとは真逆ですけど、この際関係ないです。

3. ジョルダーノ 『アンドレア・シェニエ』 第三幕 抜粋

 

最後は第三幕。ここでマデロンのアリアとジェラールのアリアを割愛したことは書いたとおりです。ご紹介するのはジェラール(パオロ・シルヴェーリ)とマッダレーナのやりとり、そしてその後のマッダレーナのアリア"La mamma morta"です。

シルヴェーリの歌は決して悪くないと思います。少し声が渋いので、バスティアニーニのようには聞こえない、というだけで。立派な声が出ています。最近は低音部の有力歌手がいないようですが・・・。この頃はぞろぞろ居たのですね。歌手にとっては大変な時代だったでしょうが、観客にとっては嬉しい時代だったのです・・・。

ここの入り、早速拍子記号。♩=138だそうで・・・。ジョルダーノはテンポ・マニアと決定ですね。マッダレーナの第一声"Carlo Gérard?”には、あきれたことに"a piacere"(ご随意に)の指示(?こういうの指示っていうんですか?)が。テバルディは暗めの音色で入ってきます。歌詞を読んでいただけばわかりますが、マッダレーナはかつての従僕が意趣返しのために自分をおびき寄せたのだと最初勘違いするのですが、次第に彼の本心がわかるということですね。令嬢時代のマッダレーナがメヌエットを習っているのをのぞき見ていたという箇所がピアニッシモの指示。"un pazzo"はアクセント記号が"grande"と"e vile!"に別々にフォルテの指示がついています。(アクセント記号も)??最初につけとけば十分では?

さて、肝心のテバルディのアリアの部分については、チェトラの録音のところでさんざん書きました。テンポ以外は関心の薄いジョルダーノ先生のようなので、歌手も好きなように歌えますね。テンポ以外は。しかも、強弱の指示は頓珍漢としか・・・。思えない。歌詞とそぐわないところでピアニッシモとか・・・。だから、チェトラでも彼女がほとんど強弱記号無視で歌っていたのがわかりました。とにかく、このCDでは、最初に聞いて驚いたのがこのテバルディのアリア。最初から遠慮なく涙混じりで、(歌に入る前から、よく聞くと彼女のすすり泣きが聞こえます)ずっとその調子で悲惨な過去を物語ります。ベルシのくだりでは、いかにも、侍女をひどい身の上にした自分が情けない、という調子。そして、声を張って愛の呼びかけを歌います。(本当はピアノの指示ですけどね。こういうとき声を小さくしろって・・・何かの間違いでは???)"Ah!"は、いきなり2点ロ音を出していますが、これが正統派。これは彼女としては珍しい。ほとんどの場合、彼女はいきなりこれを出すのにリスクを感じていたのか、2点ハ♯を前置きしていましたから・・・。そして、最後の"A----------AAAmo----r!"。やたら力が入っています。(苦笑)ここはちゃんとフォルテの指示があるから、遠慮しなくて良かったし・・・。そうでなくても、彼女はライブだと良くも悪くも、熱血派に変貌するのです。スタジオの彼女しか聞いていないと、こういう一面が絶対わからないのです。(有名な日本公演での彼女は、もう峠を越えていると思います。あれは決して、「全盛期」のテバルディの歌唱の記録ではない、と私は思っています。)

その後のやりとりでフェードアウトして、このCDはそのまま終わってしまいます。つくづく、第四幕が聞きたかった・・・。

***************

おまけです。

音が非常に悪いですが、初期のテバルディがキツいアリアでもアンコールされると平然と歌っていた記録として、他動画主様のYouTubeの動画をご紹介します。

●"La mamma morta"アンコールあり (1951年1月18日、ナポリ サン・カルロ劇場でのライブだそうです。指揮はガブリエーレ・サンティーニ。) 激しい表現の傾向はここでご紹介した録音と同じですね。しかし・・・この歌を続けて歌うって・・・信じがたい・・・。しかも二度目の方が立派だったりする・・・。「伝記」には、『運命の力』の"Pace, pace"をアンコールで歌ったと書いてあります。そのときのアルヴァーロはディ・ステファノだったそうですが、彼はあの長いアリアをテバルディが二回歌うと知って、憤然として帰ってしまったと。(2008年版P107。アルヴァーロが帰ってしまったら・・・ラストはどうしたのでしょうね?その録音が聴きたかった!)あれを二回ですよ!!!テバルディのどこが「凡庸」???「超人」の間違いでしょう。「超人的」なのに、どこまでも人間の女性らしさを感じさせるから、テバルディという人は凄い人だったのです。



次回は、奇しくも上の動画と同じナポリサン・カルロ劇場での『タンホイザー』から。