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Voce d' Angelo レナータ・テバルディに捧ぐ

レナータ・テバルディの専門ブログです。情報、動画、鑑賞録など。

1951年 ナポリ サン・カルロ劇場での『ラ・ボエーム』(2)

LIVE ラ・ボエーム

前回に引き続き、1951年1月10日、ナポリ サン・カルロ劇場で行われた『ラ・ボエーム』のライブ録音から、テバルディの登場シーンを中心にご紹介します。

1. プッチーニラ・ボエーム』 第三幕 "Mimì!"---"Speravo di trovarvi qui."

 

第三幕に入ると、ミミの病状が悪化し、ロドルフォは自分の稼ぎではミミの健康を保てないから、と断腸の思いで別れる決心をするのですが、本当の訳を本人に悟らせないため、わざと愛想づかしをします。

訳のわからないミミは困惑の極み。ついに思い切ってマルチェッロに相談にゆく場面。以前ブログを運営していたとき、ここの部分の動画の再生回数は必ずしも多くなかったですが、是非聞いていただきたいところなのです。テバルディがいかに上手い人だったか、はっきりわかる、隠れた名場面なのです!!!

この公演ではマルチェッロをティート・ゴッビが歌っています。彼はキャラクター・バリトンとして優れており、喜劇、悲劇の両方で独特の味を出した人ですが、この時の場合、どうもしっくりこない感じを受けます。

彼の声は暗すぎる上、ときに「悪人トーン」のようなものが入ってしまうと思うのです。マルチェッロはもう少し、あっけらかんとして、支離滅裂なところがあっても良いはず。「お互いに自由を許しているから俺とムゼッタはうまくやってるのさ」と言ったそばから、ムゼッタが誰かと戯れている声が聞こえるとすぐ嫉妬するという人ですから。

とにかく、テバルディの声のトーンが第一幕とガラリと変わっていることによく注意してご鑑賞下さい。まるで、別人なのです。こういうことをあっさりと自然に聞こえるようにやってしまうので、それに気づかない、気づこうとしない方々は、彼女の本当の巧さが決して理解できない。残念ですね。

マルチェッロの第一声は("Mimì!")ト書きで(sorpreso)「驚いて」とあるだけです。ここで驚けないバリトンは余り聞いたことがないような・・・。とにかく、最初の部分はマルチェッロの方にはやたらと指示があるのに、ミミの方は「咳をする」とか、「激しく泣き出す」とかいうト書きしかないのです。

そのマルチェッロ。"Musetta insegna..."あたりから"poco rallentando"少し遅くするのですね。ところが"canto ai passagieri"からは"a tempo"になっています。今度は元に戻れ、と。"Io pingo quei guerrieri"には"Risoluto「断固として」でしょうか。その後、ミミが咳をする、というト書きがあって、彼は温かいところに入るよう勧めます。"È freddo. Entrate."ここは"molto rallentando"非常に遅くしながら、です。指揮のせいもありますから、彼だけの問題ではないですが、ゴッビの歌は必ずしもこの通りにはなっていませんね。

その後はミミも加わりますが、とにかく、ト書きしかない。"C' è Rodolfo?"あたりでは静かな彼女も、だんだん気持ちが入ってきます。"O buon Marcello, aiuto! aiuto!"は、必死、というトーンがはっきり入っています。ロドルフォとの関係が気まずくなっているけれど、理由に思い当たらない彼女は、もはやマルチェッロにすがるしかない、と心を決めてきたのですから。マルチェッロの方の"Cos'è avvenuto?"はピアノの指示。プッチーニは優しさを出させたかったのでしょうか。ゴッビさん、全然ピアノじゃないです。それと、その「悪人トーン」はまずいんじゃ?

"Rodolfo, Rodolfo m' ama, Rodolfo m' ama e mi fugge, il mio Rodolfo si strugge per gelosia"長いフレーズですが、やっと指示が。最初の"m' ama"あたりから"poco affrettando e crescendo"ですが、"il mio Rodolfo"からはラレンタンドで、"strugge"はリタルダンド、"gelosia"になると"a tempo"(元に戻る)・・・。指示があるときはやたらと細かいプッチーニ先生。

これだけひどい音なのに、入りの"Rodolfo"の二連続のテバルディの美声ははっきりわかります。その後も・・・ご立派すぎて・・・。クレッシェンドしている上にあっという間に最強の"Rodooooooolfo"にたどり着いて(だから、テンポも強弱も守られています)"strugge"あたりはテンポを落としていますし、"gelosia"は早めに切り上げられています。スコアのままです!勿論、指揮も適切だったのですが。なぜ"Rodoooooolfo"が巨大なのかというと、ヴォーカルには指示がなくても、伴奏が皆フォルティッシモだからです。そこで彼女の声が消えたら、聞く方はガッカリするのが当たり前ですね。

"Un passo, un detto..."の頭にはピアノ。ここのテバルディの歌は涙混じりです。"lo mettono in sospetto"は強くなりますが、テヌート記号がついているので、強調しようと思ったのでしょう。強弱の指示はありません。"Onde corucci ed ire"は"corucci"にひねりを入れています。ここはずっと1点ハ音が続きますが、"rucci"だけフラットがついています。それでも、その通り歌ってしまうと、また削岩機の打ち込みのようなつまらない歌になるでしょう。音高が変わるのに合わせて、テバルディはそこを強調気味にして、単調になるのを避けているのです。凄すぎる。

"Talor la notte..."からの所では、"me lo sento fiso"の"me lo sento"にテヌート記号がつき、"ritenuto"「急に速度を緩めて」になっていますので、テバルディは声を張っています。テヌートはアクセントではないですが、丁寧に延ばし気味に歌えというからには、前後とは違う印象を付ける必要があるでしょう。歌詞もそれに相応しいですし。相手が自分の夢の中身まで見通そうとするかのようにじっと見ているって・・・。コワいくらいですから・・・。

"Mi grida ad ogni i(stante)"にまたテヌート記号。同時にここの頭には"sostenendo molto"の指示が。「音を十分すぎるほど保て」ということですかね。テヌートも付けているのに!"prendi un altro l'(amante)"にもテヌート記号。"Ahimè! Ahimè!"にたどり着くと今度は"stentando molto"ここも凄くゆっくりしないといけません。そして、両方の"mè"にアクセント記号がついていて、ヴォーカルには指示なしですが、伴奏はフォルティッシモです。もうちょっと指揮が遅くても良かったんじゃないかな・・・。と思いますが、テバルディは極力じっくり歌っていると思います。"Ahimè!"の細かいアクセントの付け方までスコア通りなのには驚愕。今更ですが、ライブなのを思い出して下さいますよう。

"In lui parla il rovello,io so, ma che rispondergli, Marcello?"には"declamato"の指示。歌うというより、歌詞を朗唱するような調子でいくのですね。終わり近くにはラレンタンドの指示。ここのテバルディの表現は絶妙です。ちゃんと朗唱式になっている上、ここまで涙にむせんでいるのを聞くと・・・。もらい泣きしそうになります。

マルチェッロの"Quando s'e come voi"の頭にはピアノの指示。ゴッビも声を落としていますが・・・。そこまで悪どくはなくても、スカルピアをやっているときもこんなトーンの声の時があったような・・・。マルチェッロってそんなにつれない男なのでしょうか?

"Dite ben, dite bene..."から"invano"までのフレーズには全く指示がありません。マルチェッロの方はピアノの指示。ゴッビはピアノになってませんね・・・。テバルディはここも上手すぎる。"Dite ben, dite bene, lasciarci conviene"「その通りね、別れた方が良いのよ」は声を張り、"Aiutateci, aiutateci voi"「あなた、助けて下さいな」は非常にソフトに歌っています。すがりつくように、頼んでいるのですね。"noi s' è provato più"までは1点ホ音でずっと歌いますので、低音の出ない歌手ではこれほど声が入っているはずがありません。"ma invano"の"va"でいきなり2点イに上がるので、テバルディの声が大きくなったように聞こえますが、音高が上がると声が目立つのは必然的なことです。「無駄」だった、といいたいのですから、はっきり聞こえた方が非痛感が出ます。

この際ゴッビは無視してテバルディの方を追いますが、次の入りはまた"Dite ben, dite ben"で、ここは頭に"con forza"で最初はラレンタンド、次はアラルガンドです。強力にそして遅くしていくのですね。ここもお見事としか言いようがないのです。音高が上がるのもありますが、(音が悪いのが残念)相当声を張っているのがわかります。その後がまた凄い。"lasciarci convien"は"a tempo"なので、急に早くなるのですが、それをちゃんと実践しているのです!

"Fate voi il per il meglio"は打って変わって、ピアノの指示。彼女の歌はこれまたその通り。"Dorme?"には何の指示もありませんが、悲しみと、少しおびえた風と、ためらいと・・・。いろいろなものが混じっています。

"Da ieri..."の頭にはピアノの指示がありますが、"ieri ho l' ossa"にはテヌート記号がついています。"Fuggi da me stanotte di"までは"poco affrettando"(少し早めて)で、次は"cendomi È finita!"の頭に今度はラレンタンド・・・。ころころ指示が変わりますね。ここはさすがにテバルディもスコア通りとはいっていません。"Da ieri..."のフレーズの"rotte"を少々強く歌いすぎです。ですが、テンポの指示はスコアそのまま!しかも、"È finita!"の絶望的なまでに暗い音色・・・。こんな上手い歌を他の誰が歌えるのでしょうか???

"A giorno sono uscita..."からはもうおなじみかなという、"Lento a piacere"「遅く」で「ご随意に」。そしてこの場面のミミの最後のフレーズ、"Ch' ei non mi veda!"はピアノで"rapidamente"「非常に素早く」と。

ここも上手いのです!機関銃のように1点ホ音の16分音符が並んでいますから、("questa"だけは1点ト音)Muse Scoreなどで演奏させたらさぞかしつまらないだろうと。しかし、彼女は「ジョーールノ」「ウッシーータ」「クゥエースタ」と、イタリア語の本来持っているリズムを生かして、機関銃には聞こえないように妙味を付けているのです。"volta"だけは8分音符ですから、長めに聞こえるのは不思議ではありません。スコアがそうなっているので。

"Ch' ei non mi veda"は少々大きく声が入っていますし、もっと早口で切り上げるべきだったかも知れません。しかし・・・とにかく、上手すぎて、感嘆しきりでした。有名アリアばかりお聞きにならず、どうか、こういう地味な場面で彼女がどれほど凄い歌唱を実現しているか、じっくりお聞き下さいますよう。

 

ここの解説が思いの外長くなりすぎましたので、他の動画は次回に回させて頂きます。