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Voce d' Angelo レナータ・テバルディに捧ぐ

レナータ・テバルディの専門ブログです。情報、動画、鑑賞録など。

1951年 『ジョヴァンナ・ダルコ』のラジオ放送用録音(2)

スタジオ録音 ジョヴァンナ・ダルコ

さて、余り有名とは言えないオペラなので、前回はあらすじのご紹介にとどめました。

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今回から動画のご紹介に入ります。音源は、実は二つ手元にあるのです。私が最初に購入したのは、ずっと昔、いろいろなオペラを一通り網羅しようと、CDを買い集めていた当時にたまたま見つけたもので、MELODRAMのMEL27021です。(写真)これには一応リブレットも付いていました。ただ、字幕をつけながら今更気づいたのですが、歌手は必ずしもこのリブレット通りには歌っていないのです。それから、このCDの音源は放送用だったはずなのに、すこぶる音質が悪いのです。

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その後、3千円以内で買えた、14枚組の、放送用音源などが中心のセットの中に、このオペラも含まれていました。BRAVISSIMO OPERA LIBLARYのBRV9906です。(写真)こちらも音質が良いとは決して言えません。でも、「サーッ」というノイズが、MELODRAMの盤より軽減されています。それで、動画用にはこちらの音源を採用しました。(それでも、ましな音にできたかというと、そうでもありません・・・。Audacityも試してみましたが、今度は必要な音まで消えて、不自然になってしまう・・・。妥協の結果、動画のような音質になりました。)

前回、リブレットのことを散々腐しましたが、ヴェルディの音楽が入ると、これがなかなか立派に聞こえるから不思議です。このオペラの有名な録音といえば、このテバルディの放送用録音か、EMIのモンセラート・カバリエがジョヴァンナを歌っている盤くらいしか思い当たりません。探せば他にもあるようですが・・・。(でも、プリマに魅力がないとわざわざ聴く価値のないオペラのような気が・・・。)

このオペラにおけるテバルディの歌唱については、最初からいささか懸念がありました。ヴェルディの初期のオペラとなると、どうしても装飾を多用したアリアが入ってくるのです。これを果たして彼女がちゃんと歌っているのか?大いに疑問でした。果たして、カバリエ盤を聴くと、テバルディは装飾をかなり省いているのがわかります。飽くまでも個人的な意見ですけれど、それでも、どちらがヴェルディらしさを感じさせる演奏か、と考えると、こちらの盤だと結論せざるを得ませんでした。

以前のブログではカバリエの歌唱もご紹介しましたが、その時、彼女の歌唱は、結局、詰めの細かさという点でテバルディに及ばないことがわかってしまいました。今回は、例のMuseScoreで、"Oh, ben s' addice"を楽譜通り歌うと、どういうことになるか、音源を作成した動画もご紹介します。(・・・とてもじゃないけど、指定のテンポで、あの装飾を完璧に歌えて、ジョヴァンナらしい強靱さにも欠けていないソプラノって・・・いないと思います。)

では録音データに。収録は1951年5月26日。指揮:アルフレード・シモネット、合唱・演奏:RAIミラノ放送管弦楽団・合唱団、ジョヴァンナ:レナータ・テバルディ、カルロ7世:カルロ・ベルゴンツィ、ジャコモ:ロランド・パネラーイ、その他。

カルロ王が敗戦続きで落ち込んでいるシーンは割愛して、いきなりジョヴァンナ登場のレチタティーヴォとアリアから入ります。「兜と剣さえ手に入れば、今すぐ戦場にはせ参じたいのに!」というなかなか勇ましいアリアです。

1. ヴェルディ 『ジョヴァンナ・ダルコ』 プロローグから 

"Oh, ben s'addice"---"Sempre all' alba"

 

以前のブログではジョヴァンナに扮したテバルディの写真のありかを忘れていたので、パリへの公演のために作成されたポスターに描かれた彼女の絵を使いましたが、今回は写真を見つけましたので、それを使いました。少々上を向きすぎですよ・・・。ですが、この頃の実際の彼女は、臈長けた声に惑わされると勘違いしかねない、写真のような、あどけなさを残したような若い新進歌手に過ぎなかったのです!それなのに、なぜこんな見事な歌が歌えたか。彼女はやはり、ただ者ではなかったからです。

最初は"Recitativo"の指示になっています。それにしては装飾もあり、初期のヴェルディの歌唱の難しさを感じさせます。"l' alma che vola"の装飾の時2点イ音がやたら入っているので、最初からやけに声を張っている印象がありますが、高音だからなのですね。そして、入りはさほどでもありませんが、"ai campi di battaglia!"のあたりのテバルディの強烈な声には圧倒されます。 (フォルテの指示はありません。)"Tanto richiedo a te, speme del mondo"も、強烈ですね。祖国は敗戦続きで、「世界の希望」にすがるしかないからです。

アリアに入ると、"quivi innalzo a te preghiera"あたりで"con passione"「情熱を込めて」という指示がありますが、特にひねりは入れていませんね。"mi riposo"はピアニッシモの指示。微妙ですが、声量を落としています。対照的に前後は強めに歌っています。

その後も割合ソフトに歌っていますが、"oh, se un dì..."あたりで一度盛り上がるのは、フォルテの指示があるからです。その後の"d' una spada e un cimier"は更に強力なくらいです。2点イ音がまた出てきますので、声を張るのですね。何しろ、少女とはいえ、「救国の戦士」になる人ですから、腑抜けた歌ではいけないでしょう。次の"d' una spada e d' un cimier!"では"d' un"で2点ロ音を出せと!やたら、高音が要求されている作品なのです・・・。若かったから、彼女は全くひるみもしないで取り組んだのですね。とにかく、リリック・ソプラノの出す薄っぺらい高音と違って、彼女はフル・ヴォイスで体当たりしましたから、声の衰えも、一般に認識されているより早かったのです・・・。

またしても出てくる"d' una spada"は今度は2点イ音を出せと。ここも強烈です。ある意味、ヴェルディのスコアは良くできていて、パンチを入れるべき歌詞の箇所に高音が来るように作られているのですね。その後の"Sempre all' alba..."には"dolce"とクレッシェンドの指示。ここは、少女の一心な祈りの部分だから、ということでしょう。テバルディもソフトな歌に戻しています。その後の"quivi innalzo a te, a te preghiera"は細かく休符で区切られていますから、彼女の歌も切れ切れに聞こえます。その後の"e te sognia il mio pensier"のあたりには"con grazia"「優美に・優しく」どちらともとれる指示が。テバルディには、これはお安いご用だったようです。非常にソフトに歌われています。

初期や中期のヴェルディ作品は同じ歌詞を繰り返すところが多いのですが、また、"Sempre ad alba ed alla sera"が出てくるくだりがあります。そこをテバルディはバッサリ、カット。理由は・・・。面倒な装飾の歌唱が要求されているからです。それで、いきなり、"oh, se un dì m' avvessi il dono"に飛びます。実は、最後の"d' una spada ah, d' una spada ed un cimier!"の途中の"ah"に、ボーイト先生もひっくり返るような、おっそろしい装飾がべたべたとついていて、やはり、1小節で楽譜一行使っているのです!テバルディさんは、豪快にすっ飛ばして、2点ロを強烈に維持し「これで納得してね」みたいな。その後、なんとなく装飾を付けて(こういうんじゃないんですけど・・・)乗り切っています。まぁ、仕方ないですかね。

居眠りする前の"Ma...le stanche pupille"からは"sottovoce"なのですが、少々声が大きすぎますね。締めの部分も"e benedicimi"の"-dicimi"を"con voce quasi spenta"「消え入るような声で」とあるにしては、少々大きい。最後の最後で声が消え入っています。居眠るから(・・・)当然ですね。

さて、では、「スコア通りに」MuseScoreさんに演奏していただいた動画を。(こちらでしかご覧になれません。)ちなみに、原曲には華麗な10連符が書かれているのですが(!?)ソフトはこれを演奏してくれていません・・・。入力はできても認識できなかったようです。


動画にもコメントしましたが、このテンポでは、いくら"dolcissimo"などを実践したとしても、単なる威勢の良い歌という印象で終わってしまうのでは?と。いくらスコアが良くできていても、やはり優れた歌手の手にかからないと、魅力的には聞こえないのですね・・・。

前回特集した『ラ・ボエーム』の時のテバルディの歌を思い出して下さい。まるで違う歌だと思いませんか?これは、放送用音源ですから、舞台装置もなく、普段着で、マイクの前で歌っていたのです。それなのに、こちらは「神の霊感を受けた戦士」の歌になっています。ミミとは別人ですね。装飾が歌えていない、それはそうです。ですが、このように、キャラクターによる適切な歌い分けができる、しかも、放送局の中にいるだけなのに。それが、テバルディという人の凄さでした。


2. ヴェルディ 『ジョヴァンナ・ダルコ』 プロローグから 

"Paventi, Carlo, tu forse"---"Pronta sono!"

 

ここは、前のテバルディのアリアにすぐ続く場面。カルロ王が現れ、夢のお告げに従って兜と剣を置きに来ますが、それはそのままジョヴァンナの手に入り、彼女はやっと念願を叶えることになります。ここではテバルディより数歳若いベルゴンツィがもう立派な歌を聞かせています。彼も非凡な歌手でした。テバルディがらみでは、プッチーニのセラフィン盤での歌唱が印象に残ってしまっていますが、彼はヴェルディを崇拝するあまり、"I Due Foscari"、つまり『二人のフォスカリ』というヴェルディのオペラのタイトルをそのまま店名にした食堂のオーナーだったくらいで、むしろヴェルディの歌唱において素晴らしい経歴を残したし、ヴェルディの作品を歌いこなすだけの重厚な声を持っていました。デル・モナコほどの強靱さと輝きはありませんでしたが、彼も理想的なヴェルディテノールだったと思います。ちなみに、その店にはテバルディもよく招かれ、大いに美味な食事および、気心知れた仲間達との会話を楽しんだ、とのことです。

それはさておき、ここでは居眠りしているジョヴァンナに、まさに『天使の声』が語りかけるのですが、こういう腑抜けた歌を「天使の歌」と考えられることのほうが多いのは嘆かわしい限りです。そのすぐ後で、まさに目覚めたジョヴァンナ(テバルディ)の目の覚めるような凜とした歌が聞こえてくると、尚更「これが本当の天使ですよ!」と言いたくなります。悪を懲らすのに腑抜けのようでどうするのでしょう?とにかくものすごい勢いで、ベルゴンツィとパネラーイも加わった三重唱はまさに切れば血が吹き出るような熱を帯びており、これこそヴェルディの世界、と感じさせてくれるのです。

少々先取りしてしまいましたが、少し丁寧にスコアを見ていくと、まず、悪魔の合唱の方に"grazioso"の指示があります!「優美に」って!結局、誘惑の歌だから、彼女が罠にはまるようにわざと甘ったるく歌えというのですね。ヴェルディ様はさすがです。対照的に、天使の歌は、"grandioso"「荘重に」です。キリスト教徒にとっての天使は腑抜けじゃいけないのです。威厳がないと。テバルディの声にも、威厳や強靱さが備わっている。だから、『天使の声』なのです。ただ・・・ここの放送合唱団はお粗末すぎて、どちらも全くなってないです・・・。

さて、本物の(?ここのはダメ・ヴァージョンですが)「天使の声」を聞いて、ハッと目覚めたジョヴァンナの第一声"Pronta sono!"には何の指示もありませんが、テバルディは強烈な声で、まさに「霊感にうたれました!」という調子で歌い出します。これぞ、『天使の声』。

この後のジョヴァンナの歌には"l' insegna del franco guerriero"でクレッシェンドして"-rie-"にアクセントをつけろ、というくらいの指示しかないのですが・・・。強力すぎて、圧倒されます。そう、ミミの時とはまるで別人なのです。これで勝てなかったら、誰が勝てるのでしょう?ものすごい気合いの入った歌です。

三重唱に入ると他の二人も負けじと声を張るので、途方もない迫力になっています。じつは、ここはもっと長いのですが、放送用の録音に良くある(また、初期のヴェルディ作品の演奏では良く行われる)カットがなされていて、コンパクトになっています。ちょっと残念です。それから、音質が悪いのも・・・。

ジョヴァンナのパートは、最後は2点ハ音か、ハイCか、選べるようになっています。テバルディはここで無理してハイCを出してはいません。これだけの強力な熱唱を聞かせてくれたら、そんなことまで望もうなんて、思いませんから・・・。

 

ここでプロローグは終わり、第一幕ではもうオルレアンの戦いを勝利で飾った後の話が始まります。それは次回にご紹介します。