読者です 読者をやめる 読者になる 読者になる

Voce d' Angelo レナータ・テバルディに捧ぐ

レナータ・テバルディの専門ブログです。情報、動画、鑑賞録など。

1951年 『ジョヴァンナ・ダルコ』のラジオ放送用録音(3)

スタジオ録音 ジョヴァンナ・ダルコ

さて、1951年5月、ラジオ放送用に収録された、ヴェルディ『ジョヴァンナ・ダルコ』から、テバルディの出演シーンを中心にご紹介しております。

オルレアンの戦いで勝利を収め、ランスの宮廷では祝宴が行われているが、元は村娘のジャンヌはそういう場に楽しみは見いだせず、「もう私の役目は終わったのではないか、」と自問した上、故郷を懐かしく思い出します。そのレチタティーヴォとアリア。

1. ヴェルディ 『ジョヴァンナ・ダルコ』 第一幕より 

"Qui! Qui!... Dove più s’ apre"---"O fatidica foresta,"


テバルディの歌はこのあたりから、持ち前の優しさを帯び始めます。ただただ勢いがよかったプロローグとはうって変わって、戦い終えて、普通の女性らしいジョヴァンナが現れてくるのです。

入りはレチタティーヴォです。"Perché rimango qui? Chi mi trattiene?"の頭からクレッシェンドがついて、"-tiene"がフォルティッシモ、という指示くらいしかありません。

にしては・・・やっぱりテバルディは詰めが細かいのです。"Le mie fibre scuote, un senso, un turbamento,che interrogar pavento."何だかわからない動揺で心が乱れている、というのですが、特に"turbamento"は本当に心が揺らいでいるようなトーンが入っており、"interrogar pavento"は恐ろしいわ、という風に聞こえます。

対照的に、"Gravi m’ eran gli applausi."それは事実だったでしょうし、彼女としても喜ばしいことでしょうから、強力に歌われています。でも、彼女はじつは悩んでいる。"Oh! Ma compiuto non è l’ incarco?"もうつとめは果たしたのに、自分はこの上なぜここでぐずぐず居残っているの?と。テバルディのトーンはやはり、少々不安げな、動揺した調子です。

"Perché rimango qui? Chi mi trattiene?"から強めろというのがスコアの指示でしたが、その前のフレーズから、テバルディはもう声を張っています。最後のフレーズはまさにフォルティッシモ。これだけの声が出ているのですから!「私の役目は終わったんじゃない。もう帰らなくちゃいけないのよ」と、強いて自分に言い聞かせている、といったところなのでしょう。

"O fatidica foresta"からはアリアに入ります。早速、頭に"semplicita"の指示。本来、田舎の村娘ですから、純朴で、素直な歌が好ましいのですね。"O mio padre"の上にはクレッシェンド。"deh ridatele i contenti"はフォルテ。もう一度来る"O mio padre, mia capanna"の頭には"con espressione"ですから「表情豊かに」というところでしょう。最後の締めは"capanna"を装飾を加えながら延々と歌うのですが、"-pan"から"dolce"の指示があり、"-na"からアラルガンドです。

装飾は・・・彼女の場合、少々無理がありますから、歌い口に注意して聞いてみます。入りは純朴、というより、非常に柔らかく、優しい歌いぶりですね。"O mio padre"は見事にクレッシェンドしています。"tornerà tra voi Giovanna;"は三連符が相当あるのですが、スラーでくくられているので、もう少しなめらかだと良かったかもしれません。ただ、抑えめの声が、この歌の気分に相応しい。

次はフォルテの部分です。テバルディの歌は、スコアの指示より手が込んでいます。"Deh! ridatele i contenti, che più l’ alma non senti!"頭は指示通り、強烈に"Deh!"と張り、"ridatele i contenti"は優しく、柔らかく、"che più"でまた盛り上げ、一度落として"senti"でまた盛り上げています。これだけの細かいコントロールをしているので、ただフォルテを張り続ける歌よりずっと味わいがある仕上がりになっているのですね。

"con espressione"の"O mio padre, mia cappanna, deh, ridatele i contenti"は・・・「表情豊かに」を通り越して、例の「温度のある」ビロードの声で歌っていますので、これ以上美しく歌えるだろうか???という域に達しています。もう一度同じフレーズが来ますが、最後は結構な装飾がついている上、"dolce"だの、アラルガンドだのと注文がついているところです。装飾の方ははっきりいってテキトーですが、何しろ"capanna"の美しいこと!ジョヴァンナが本当に懐かしんで、愛情込めているのがはっきり聞き取れる歌いぶりです。最後は"ah"のヴォカリーズで締めていますが、これも装飾はテキトーとはいえ、美しいので、「変な装飾は要りません」と言ってしまいたい・・・。

プロローグとはえらい違いです。同じヒロインを演じていても、場面に応じて、相応しいトーンを付けて歌える・・・。まだ新進歌手だったのですよ?!


2. ヴェルディ 『ジョヴァンナ・ダルコ』 第一幕より "Ho risolto!"

 

オペラらしいと言えば言えるのですが、台本がめちゃくちゃになる原因でもある、王とジョヴァンナのラブ・シーン。。。

ここは、ついにジョヴァンナが口にすべきでないことを言ってしまい、「天使の警告」が聞こえてくるまで、ト書きしかありません。強弱も、表現指示もなし。

ベルゴンツィも(テバルディより年下でした)若いのに、見事です。"Dunque, o cruda, e gloria e trono, offeristi a Carlo in dono,"のあたりはト書きで(con tutta la passione)とありますから、ありったけの情熱を込めないといけませんが、彼の歌はまさにそうなっています。

彼の"Fin dal dì che m’ apparivi, io t’ amai d’ immenso amor!"の歌いぶりは、大概の女なら気持ちがぐらつきそうな調子です。その後のジョヴァンナの"Oh pietade..."のあたりにはこれもト書きで(commossa)「心動かされ」となっていますから、ジョヴァンナもこの口説き文句に心がぐらついたのですね。ベルゴンツィが見事ならテバルディも負けていません。"Oh pietade!...,Io più non sono l’ inviata di Maria;"では強めに入って、だんだんデクレッシェンドしています。はねつけようとするのですが、心がぐらついているので、締めに近づくと自信喪失して、つい、柔らかい調子になってしまう。ぐらついている女そのままです。"solo usbergo al dolce suono, degli affetti è debil sen."も同じパターンで歌っていますね。

その次がまた凄い。"Deh rispettami qual pria!"は最初から強力ですが、繰り返すと更に強力になり、最後の"Ch’ io non, ch’ io non sugga il tuo velen!"もこれでもか、と声を張っています。これはぐらついている自分に対する叱責でもあり、また同じ調子で口説かれるのは困る、という恐れから、強烈にはねつけているのですね。できることなら、これでやめてもらいたいから。

ここ・・・二人ともト書き以外の指示がないのにこういう歌が歌えたのですよ・・・。この時代の歌手の実力は、本当に、恐るべきものがありました。

これだけ強烈にはねつけられても食い下がるカルロ王。また口説き始めますから、さすがのジョヴァンナも・・・まずい状況に。テバルディの"Taci, taci"は声に力がなくなっており、完全に困っています。次の、"La mia mente... va smarrita!...Ahi! si perde...."の頭にはト書きで(sottovoce)とありますから、ピアニッシモくらいに落とさないといけません。声は落とし切れていませんね(彼女としては落としたつもり?)が、声を微妙に震わせて、歌詞の通りの気分を出しています。「もう駄目・・・」ということ、ですね。

"Pietà, Carlo!"は必死で訴えていると同時に、自分にもここで踏みとどまらなければいけないのよ、という強い思いが表われています。誘惑に負けるのが怖いからですね。

次のベルゴンツィがまたしても雄弁に"A te, mia vita, a te chiedo io pur pietà."を歌うので、ついにジョヴァンナは降参。"T’ amo!... T’ amo!... "こういう台詞がないと、イタリア・オペラって成り立たないんでしょうね・・・。ここはクレッシェンドの指示がついていますので、テバルディは強烈に盛り上げていきます。驚くのはその後の二人の歌。"Oh, amor..."をデクレッシェンドして"dolce"にしろなんて書いてありませんが、これをやっているので、この二人が夢中になっているのがわかるのです!何という若手歌手達!

ここで、例の情けないほうの「天使の声」が聞こえてきて、ジョヴァンナは愕然。大変なことを言ってしまったと悟るのですね。

何も聞こえない凡人のカルロ王は無頓着。彼女を引き留めたい一心です。"o vergine, stai fra le braccia."は"vergine"からクレッシェンド。聞いた感じでもはっきりわかりますが、"È puro l’ aere, l’impido è il cielo, siccome il velo, di nostra, di nostra fé."には"Cantabile"の指示。まさにその通りです。最初はピアニッシモで入って、"l’impido è il cielo,"あたりで一度クレッシェンド、"siccome il velo"あたりでもう一度クレッシェンドです。ベルゴンツィはクレッシェンドを実践している上に、"di nostra, di nostra fé."を柔らかく歌って、甘美な感じを出しています。

でも、もうジョヴァンナにとってはそれどころではありません。"Fur dessi!...Gli angeli! Non hai veduto?"のテバルディの声ははっきり、おびえているトーンが入っています。二人とも負けじと凄い歌を聞かせている・・・。本来史実を持ち出したら妙としか言いようのない場面が、名場面になっています!

"Lasciami, lasciami, ah, son maledetta!"になると、"son male-"はフォルティッシモでアクセント記号がついていますから、テバルディ、強靱な声を張っています。"Qual fra le tenebre, torvo e canuto"は一転して、ピアニッシモの指示。しかも"cupo"「暗く」です。また、テバルディは気味の悪い、というトーンを入れて、"tenebre"や"canuto"に強調を付けるという細かさ。不気味さが一段と引き立ちます・・・。

"“Muori, o sacrilega!”,"にはピアニッシモの指示があります。MuseScoreあたりに演奏させると、ここをべったり、同じ調子でピアニッシモで演奏するでしょうね。でも、テバルディは敢えてそうしていません。"sacrilega..."の途中を盛り上げて、恐ろしげな感じを付けているのです。ブツブツつぶやくように歌ってしまったら、こうは聞こえないでしょう。

"Qual voce, oh dio! Il padre mio, che vuol da me?"は指示こそないですが、大変。2点ロ音や2点ハ音などが何度か出てくる、非常に高音域で歌われる部分なのです。若いテバルディはひるむことなく強烈に声を張っています。確かにハイCは少々躊躇があったようですが、2点ロあたりは、少なくともこの時点ではまるで問題がなかったのです。

一方の、空気が読めないカルロ王。またカンタービレで同じ台詞を繰り返します。相手の気分が完全に変わっているのに気づいていない・・・。その鈍感ぶりをベルゴンツィがしっかり出しているので、この落差が一段と強調されるのです。素晴らしいコンビですね。

"lasciami, lasciami,..."はどうということはないのですが、(それでも、テバルディは一貫して、「惨めだわ」というトーンを入れています。)"son maledetta, ah! son maledetta!"では2点トや2点ハを張らなければならないキツい部分。テバルディさん、まるで手を抜く気はなかったご様子で、ものすごい声で歌い上げています。

ジョヴァンナの"Il padre mio, che vuol da me?"とカルロ王の"siccome il velo, di nostra, di nostra fé."のデュエットも出色です。指示はないですが、2人ともぴったりと息が合っている上、この上なく柔らかく、美しく歌っています。

次に同じ歌詞を歌うときは、二人とも高音域で歌わなければなりません。ジョヴァンナのパートはまたしても2点ロを要求されていますが、ここはピアニッシモの指示があるので、非常に難しい。高音は大声で歌った方が出やすいからです。しかし・・・テバルディは何の危なげもなく、鳥肌もののピアニッシモでここを歌いきっています。

最後の二人の"(male)detta!"と"ciel"はフォルティッシモです。二人ともクレッシェンドしながら、ここまで持ってきて、強烈な声を張っています。

とにかく、もう二度と現われない(と、もう私にはわかっているのです・・・。オペラの世界では。)優れたペアによる、名場面でした。

 

この後王の側近達が来て、ランスで戴冠式を行うから、軍旗を持ってパレードの先導をして欲しい、とジョヴァンナに依頼に来ます。もはや堕落したと信じたジョヴァンナには悪霊達の嘲笑する声が聞こえてきます。短いのでカットしました。

そのシーンが終わると、次の幕に移ります。そこからは次回に。