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Voce d' Angelo レナータ・テバルディに捧ぐ

レナータ・テバルディの専門ブログです。情報、動画、鑑賞録など。

『蝶々夫人』ご本人ご使用のスコア

私のように、テバルディのファンと言っても、オペラを聞き始めたのが比較的遅く、(大学生の時代から)すでに音楽メディアとしてCDが定着し始めた頃にオペラのファンになった者は、当然のことながら、彼女の現役時代の情報や資料は後から集めるしか手段がないというのが現実です。

しかし、この間「テクノロジーが発展したとはいえ人の心は貧しくなったような・・・」と書いた割には、テクノロジーの恩恵を最大限に受けているのは間違いなく、それを有効で、有益な目的のために活用するならば、これ以上望ましいことはないとは思っています。

特に、インターネットの発達は、情報収集の手段を飛躍的に進歩させたと思います。勿論、彼女が現役時代に、音楽雑誌やLPについていたエピソードなどを読めていたらそれもありがたいことではあったでしょうけれど、正直申し上げて昔の日本人のイタリア語の翻訳は・・・不正確すぎ、当時出回っていた情報もどこまで正確なのかわからないとしたら、別に今それが手に入らなくてもさほど惜しいとは思わなくなりました。それに、ライナーに書いてある事って・・・眉唾だという例を以前ご紹介しましたしね。

今回も、インターネットという今では当たり前になった情報収集手段を介して、手に入れることができたものです。

ヴェルディの故郷でもある、ブッセートには、テバルディの博物館があります。現役時代実際に着用していたコスチューム、宝飾品、等身大パネルの写真などが展示されているようです。許可を得ているわけではないので、テキストでリンクを貼ります。サイトをご覧になりたい方はどうぞ。http://www.museorenatatebaldi.it/

さて、今回は特にこの博物館のご紹介をしたいわけではありません。ただ、(本当は展示品の写真を撮るのって・・・まずいのでは?)とは思いましたが、Twitterを覗いたら下の写真を発見。何のスコアかと言えば、『蝶々夫人』なのです。

 

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ここに貼ったのは、Twitterからいただいてきて、私が少し画質をシャープにして、文字などを読み取りやすくした上、斜め向きになっていたスコアを回転させて正面向きに直したものです。

このスコアが特別に取り上げられているのは、その博物館には『蝶々夫人』専門の部屋があるからです。テバルディが特にこのレパートリーを好んだとかで。(・・・むしろやりにくかったのでは?)オペラで描かれているのは日本とはいえない日本ですけれど、日本人としては何だか、嬉しいことですね。(下は博物館の見取り図。色つきの部屋が『蝶々夫人』の部屋)

 

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ここから読み取れるのは・・・。まず、彼女は基本的にはヴォーカル用のスコアで勉強していたらしいこと。(総譜はオケのパートも全て書き込まれた化け物のような大部のものですから・・・持ち運ぶのも骨です。)

そして、彼女は自分のパートに赤鉛筆で「定規を使って」線を引いて、目立つようにしていた、ということ。(几帳面ですね・・・ぞんざいな人なら、フリーハンドで線を引いてしまうでしょう。)

ただ・・・大変残念なのは・・・彼女の書き込みの字は・・・判読不能、ということです。やはり、1922年の生まれの方らしく、筆記体で書く習慣があったのですね。現代の外国人はブロック体で書く人の方が圧倒的に多いですし、「筆記体で書かれると読めない」と言われてしまうのが実情なのです。

この写真の場面がどこかというと、蝶々夫人がピンカートンに、袂を見せて、「ちょっと、ここにある品を取り出したいんですけれど・・・お嫌ですか?」「そんなことがあるものか、美しいバタフライ!」「(では、とばかりに)手ぬぐい・・・キセル・・・」と始める部分です。

ひとつ確かなのは、彼女が、"Signor, F. B. Pinkerton, perdono..."というくだりの所を、わざわざサインペンで"Signor [B. F.] Pinkerton,と訂正を入れていることです。これは、実は正しいのですよね。なぜかと言えば、結婚の手続きの時にピンカートンのフル・ネームが読み上げられるのですが(余りにもベタな名前なので吹き出しそうになりますが)「ベンジャミン・フランクリン・ピンカートン」ですよね。だから、イニシャルはB.F.ピンカートンが正しい。

でも、結局はテバルディは本来のスコアのまま、"F. B. Pinkerton"で歌うことにしたようです。よくスコアをご覧頂けばわかりますが、これはプッチーニのミスなのです。アルファベットの読み方は、同じ文字を使っていても、国ごとに違います。イタリア語の場合、F.B.は「エッフェ、ビ」のように読まれるので、音の長さを変えなければならない。正しくは「ビ、エッフェ」なので、最初に4分音符ひとつ、次に4分音符二つをあてるべきだったのに、プッチーニは逆にしてしまったのです。

「正しくはB.F.なのに・・・仕方ないわね」といったところだったのでしょうか。訂正はしてみたものの、テバルディは実際は歌いづらいので結局スコアの間違いのままに歌うことにしたのですね。

スコアの写真を見ただけでもいろいろ想像が膨らみますが、想像は想像に過ぎませんので、この話はこの辺で。できたら、『オテッロ』のスコアの"come eco"などの指示の所に、彼女がどんな書き込みをしたのか読みたかったのですが・・・展示されていたにせよ、このなだらかすぎる字では・・・どうせ読めないか・・・(泣)。


次回からは、予告させて頂いたとおり、同年にスタジオ録音されたモノラル盤の『トスカ』を特集します。