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Voce d' Angelo レナータ・テバルディに捧ぐ

レナータ・テバルディの専門ブログです。情報、動画、鑑賞録など。

1953年のテバルディのスケジュール他

1953年の音源をご紹介するにあたって、まずはテバルディの『運命の力』のデビュー時の歌唱を記録した、フィレンツェでのライブ音源から動画を準備していました。

以前のブログでこの音源をご紹介する際、私はこれを「折り紙付きの名演」とご紹介しました。が、聞き直し、聞き込んでみた結果、どうもそうとは言い切れない、という結論に達したのです。

この年の音源ではブエノス・アイレスでのコンサートの模様の記録もご紹介する予定ですが、ここでも彼女は「らしく」ないミスを犯しています。全体的な印象は、決してどちらも低レベルとは言いがたく、むしろ、こういう歌唱は今日期待する方が無理なくらいなのですが、テバルディの出来としては最高とは言えない。

なぜ、そうなったか。それには原因があるはずなのです。私は1952年くらいから過密になり始めた彼女のスケジュールに一因がある、と考えました。ネットには便利なサイトがあって、西暦を入れるとその年のカレンダーを出してくれるサイトがあります。そこで1953年のカレンダーを出し、テバルディがどのくらいの公演、またはコンサート、スタジオ録音をこの年にこなしたのか、○を付けました。それが下の図です。

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紫の○はオペラの出演(勿論全てヒロインの役です)。黄緑色はコンサートの出演、水色はレコーディングです。

詳細な情報を文字で起こします。(情報源は例のCronologiaです。)1月 4日 サン・カルロ アドリアーナ 10,14,18 サン・カルロ 『チェチーリア』 27,30 パレルモ 『メフィストーフェレ』

2月6,8 レッジョ・エミーリア 『トスカ』 15 ブレッシャ 『トスカ』 16 コンサート 4曲 

3月7,10,12,15,17 サン・カルロ 『アイーダ』 19 サン・カルロ コンサート 4曲 29 サン・カルロ 『アイーダ』 31 モナコ公国 『椿姫』

4月2,5,7 モナコ公国 『椿姫』 12,15,18,20,23,29 スカラ座 『トスカ』

5月3 スカラ座 『トスカ』 7,9,12,21,24 スカラ座 『アドリアーナ』 25,31 トリノ 『アンドレア・シェニエ』 レコーディング

6月2 スカラ座 『トスカ』 14,16,18,21,23 『運命の力』

7月24,29 ブエノス・アイレス 『アイーダ』 

8月2 ブエノス・アイレス 『アイーダ』 7,9,12,15 ブエノス・アイレス 『トスカ』 20 ブエノス・アイレス コンサート 24 ブエノス・アイレス コンサート 25 ブエノス・アイレス 『トスカ』

9月4,6 リオ 『トスカ』 10,13 リオ 『オテッロ』 15 リオ 『ボエーム』 17 リオ 『トスカ』 20,26 リオ 『ボエーム』

10月2,6 リオ 『アドリアーナ』

11月4,7 バルセロナ 『ボエーム』 12 バルセロナ 『トスカ』 15 バルセロナ 『椿姫』 17,22 バルセロナ 『トスカ』 24 バルセロナ 『トスカ』 30 ミラノ RAI コンサート 4曲

12月7,11,13,17,20,23 スカラ座 『ラ・ヴァッリー』 

・・・カレンダーを見ただけでも私は呆然としました。満足に休めている期間がほとんど無いのです。なぜか。6月と7月の日程は大分間が空いていますが、これはイタリアから南米へ船旅に要した期間が入っているのです。テバルディはこれ以前、プロペラ機で(当時ジャンボ・ジェット機はまだありませんでした)南米からイタリアに帰国する途中、乱気流に巻き込まれて命からがらの思いをしてから、「飛行機には二度と乗らない!」と心に誓ったのです。結局は後年飛行機に乗るようになりましたが、それは母親がアメリカで亡くなったため、祖国に飛行機で遺体を運ばねばならず、それに遅れないためには別便の飛行機に乗らざるを得なかったからです。それからは飛行機に乗るようになったようです。

それだけではありません。組まれている演目の内容が辛すぎる。トスカやアイーダや、次に取り上げる『運命の力』のレオノーラ、ヴァッリーなどは非常にきつい。ヴィオレッタだって楽ではありません。出ない場面がほとんど無いと言って良いので。デスデーモナやアドリアーナやミミは彼女としては楽な方だったでしょう、が、テバルディはとにかく、『天使の声』を聞かせるのを期待されていましたから、こうした比較的「楽」な役だからといって油断するわけにはいかなかったのです。デリケートでコントロールの行き届いた歌唱を聞かせられなければ、彼女にとっては「失敗」になってしまったのです。

この年、彼女は31歳でした。まだ体力的には問題ない年齢ですが、いくら健康な31歳の女性でも、これだけの演目をこなすのは辛かったはずです。そして、1月の『チェチーリア』(このオペラからの2シーンを彼女は1955年のアリア集に吹き込んでいますから、その時これについての内容は解説させていただきます)や『運命の力』、『ラ・ヴァッリー』は初めて歌うので、一から覚える必要がありました。歌い慣れた演目も多かったとはいえ、これだけの過密スケジュールの合間に全て暗譜するのは容易なことではなかったはずです。オペラ公演にはプロンプターもいますけれど、タイミング良く、聞こえるように歌い出しを言ってくれるとは限らない。本当に困ったときの助け船でしかないのです。

勿論、このスケジュールを了承したのはテバルディ自身だったでしょうから、言い訳にはなりません。なりませんが、とにかく、彼女は忙しすぎた。もう少し、慎重であるべきだったと思います。こういうスケジュールを組んだ一因は、察しがついています。「例の方」との競争が本格化したからなのです。事実、これから取り上げる『運命の力』の直前、同じ劇場で上演されていたのは「例の方」の「メデア」だったのです。

ちなみに、現在の歌手はどのようなスケジュールを組んでいるのでしょうか?私はもう最近の歌手を追っていません。明らかに水準が過去の歌手より落ちているからです。ともかく、一人の例を取り上げます。昨シーズン、スカラ座で『蝶々夫人』を歌ったという、ウルグアイ出身の(イタリア人ではない・・・というのがまた、イタリア・オペラの陥っている悲惨な現状を物語っているように思えます・・・。昔はテバルディでなくても、この演目を歌う「イタリア人」のソプラノは沢山いたのに・・・)マリア・ホセ・シーリ(と読むのかな?スペイン語の読み方は私にはよくわかりません)の、昨シーズンのスケジュールをオフィシャル・ホームページで見てきて、書き写しました。

1月 23,26,28,31 ボローニャアッティラ』  2月 9,11,14,17,21 トリノ 『トスカ』 25,28 バルセロナ 『アイーダ』 3月 30 モスクワ 『アイーダ』 4月 14,17,20,23 東京・新国立劇場 『アンドレア・シェニエ』

5月 28,29,31 6月 1,7,8 ナポリ 『修道女アンジェリカ』 7月23,29 8月7 マチェラータ 『ノルマ』 8月 21,24,28 ヴェローナ 『アイーダ』 9月 11,14 モスクワ ヴェルディ『レクイエム』 10月 16,21 ドレスデン 『トスカ』 12月 7,10,13,16,18,23 スカラ座 『蝶々夫人

これをカレンダーに直すと、こうなります。

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彼女が何歳なのかはわかりません。昔は歌手の生年月日など、真っ先にプロフィールに書かれてしまったものですが、今はそういうことが無いように配慮されているようです・・・。まだ若手なのでしょうが、テバルディのカレンダーと比べると、「ずいぶん楽ですね・・」という印象が。彼女も歌っている演目自体は大変なものが多いです。というか、まるで、ほとんどテバルディを意識しているかのような、レパートリーの似通い方です。『アッティラ』や『ノルマ』はテバルディ向きではなかったから、彼女が歌わなかったのは当然でした。ただ、この人がリリコ・スピントのレパートリーに意識的に取り組んでいたとしても、問題は歌唱の中身にあるのです。どんなものでしょうかね・・・。

次回からは、テバルディの『運命の力』、デビュー戦の音源のご紹介に入ります。