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Voce d' Angelo レナータ・テバルディに捧ぐ

レナータ・テバルディの専門ブログです。情報、動画、鑑賞録など。

1953年 ミラノ・スカラ座での『ラ・ヴァッリー』(3)

さて、前までのシーンの鑑賞録が長引いてしまったので、ここだけ切り分けました。第二幕でも特に大変な「事件」の場面。

3. カタラーニ 『ラ・ヴァッリー』 第二幕 "Che brami, Wally?"


前回のゲルナーとのやりとりが終った時点で、ト書きが入っています。(È fuori di sé: acciecata, pazza, batte sulla tavola dove sta ancora la tazza che Afra le aveva portata. Afra accorre. Wally è così agitata che non si avvede che già della Chiesa esce la gente e che la piazza ritorna piena di voce e di moto.) 長っ。訳すとこんな風に。「彼女は我を忘れる:逆上し、自制を失い、アフラが運んできたカップがまだ乗っているテーブルを叩く。アフラが駆け寄ってくる。余りにも興奮していたのでヴァッリーは、もう人々が教会から出てきて広場が話し声や動きで満ちているのにも気づかない。)

要するに、ヴァッリーは逆上してテーブルをひっぱたいたので(実際にはそういう音は聞こえませんが・・・テバルディはどうしたのでしょう?)その音に驚いてアフラがとんできて、次の歌詞になるのですね。"Che brami, Wally?"と。彼女にはまるで他意がなく、ヴァッリーは何か注文したくてテーブルを叩いたのだと解釈したのです。こういう人に対するヴァッリーの次の対応は、正直同じ女でも「何、この人!」とムッとさせられるのですが、とにかく、こういう役だろうと何だろうと、テバルディはやらざるを得ませんでした。

"Invero che tal broda solo i tuoi ganzi posson trangugiar!"ここには字幕に入れたト書きの他に、スコア上の指示が。"ben pronunciate"「しっかり発音して」って・・・テバルディには余計なお世話のような・・・。「我を忘れてはいても、言うことははっきり伝わるようにいいなさいよ」という趣旨でしょう。テバルディはいつも「以上」にくっきりはっきり歌っていますから、嫌でもわかります。ト書きでは字幕の通り、ヴァッリーがカップを地面に叩きつけるので中身が飛び跳ねてアフラの服を汚すのです。サイテー。言っていることも、サイテー。「強すぎる嫉妬は困る」。オテッロやフォードやトスカやこの人・・・。困りものです。

皆が驚いて反応して初めて、彼女はもうミサが終っていたのに気づくのですね。やけに落ち着いて"Nulla"と。(指示はありません)落ち着いてはいますが、有無を言わせない強力さがあって、「騒がないでくれない?」という調子です。サイテーなヒロインとわかっていても、テバルディは各フレーズに相応しい対応をしているのです。

"Ed or perché tu piangi?"はピアノの指示で"(per-)ché"が最強になるようクレッシェンドとデクレッシェンドの指示があります。2分休符二つ分休んで"Non temer!"4分休符と8分休符をはさんで"Come s'asciughin gli occhi alle fantesche io so!" "Toh! Ridi!" この一連のフレーズには最後の"Ridi!"にアクセントがあるだけです。"gli occhi fantesche io"までは1点ホ♭という低音。"so, Toh"でいきなり2点ホ♭にオクターヴ上がって、"Ridi"は更に半音上がる。♭が抜けるのです。小銭を叩きつけて「笑いなさいよ!」って・・・。又してもサイテー。

サイテーだろうと何だろうと、テバルディは全然手を抜いていません。猛烈な声で、暗い音色を付け、ほとんど怖い。最後なんて・・・小銭というより声を叩きつけているようです。彼女の持ち声が厚みのある強靱さを持っていたから、こういう一連のフレーズが強烈に歌える。嫌な女でも、「嫌な女」の感じが十分出せないといけません。これだけ憎々しげに叩きつけているので、「何なの、この女!」と聴衆の憤慨を買うわけで、それは実はテバルディが正しい効果を上げるのに成功しているからなのです。「感動」って、色々な種類があります。「もらい泣きを誘われる」だけが感動ではない。「この人酷いんじゃない?」も心の動きです。そちらに聴衆の心を持っていけないなら、この役を満足に歌ったことにはなりません。

ここでヴァッリーが「サイテー」ぶりを十分発揮するので、別にアフラのことなど何とも思っていないハーゲンバッハの義憤を掻き立ててしまうのです。「この思い上がった女を罰しなければ」と。それは実は彼自身の心の底に隠れているこの「思い上がった女」に対する不思議な愛情の屈折した現れなのですが。男性にはどうしてもは女を屈服させたいという気持ちが多少はあるようですね。ハーゲンバッハは理性の上では「復讐のためだ」と思っているのですが、本能的にはヴァッリーを「征服したい」のです。それは、この後の成り行きを見ていけばわかります。

早速「復讐」にかかるハーゲンバッハ。ヴァッリーが投げつけたお金を拾い上げて楽団にチップとして払い、「レントラー(ワルツの前身だということはご存じかと。)を頼むよ、と。」それを聞きながらヴァッリーの傍白。"Povera me, Vincenzo ha detto il vero!"指示はないですが、テバルディは直前とは真逆の、うろたえたような声で、悲しげに歌っています。しょうも無い勘違い女ですが、「完全に勘違いしている」とこちらにわかるのは、テバルディがうろたえた声色を入れているからなのです。彼女が無感動に歌ったら、このヒロインは言葉通りにはショックを受けていない、と思われてしまうのです。

デル・モナコの声が例によって大きすぎて、「賭け」の話がヴァッリーに丸聞こえじゃないの?ですが、これは仕方ないのです。"Sì...danziam...Ma pria vo fare una scomessa..."あたりからのフレーズはフォルテの指示が出ているので。「オペラ」と「リアル」は無関係ですよ・・・。

ハーゲンバッハのダンスの申し込みに対するヴァッリーの反応。"Se dici il ver!"これには(lusingata)「満足して・虚栄心をくすぐられて」のト書き。疑っている割には喜ぶ???ただ、次には彼女の懸念が。"Pure...i tuoi occhi han certi strani sguardi."こちらはピアノの指示で、(guardandolo dubbiosa)「彼を疑わしげに眺めて」のト書き。"L' ingannarmi saria crudel..."には(con tristezza)「悲しげに」のト書き・・・。さっきまで最悪の態度を取っていた人が・・・。ただ、「自分勝手」という点では一貫性がないとは言えません。ここの歌には感服。途中のピアノは微妙ですが、はじめは透明な美声で喜んでいる様子。途中、ピアノにしきれなかったのは、「疑念」が少々鋭さになって声に出たからでしょう。最後は、見事に「悲しげ」になっています・・・。

ダンス中、会話する二人。(これ、舞台ではどうしたんだろうと・・・テバルディは動きがスマートとは言えなかったし、デル・モナコより・・・身長が高かったので・・・)ヴァッリーはハーゲンバッハに話しかけられて"Posar sovra il tuo petto... scordar il mondo e Dio"ここもピアノの指示ですが、足音がうるさい中でそれはちょっと無理じゃ?テバルディは抑えていません。むしろ声が通っている。"scordar mondo e Dio"の美しさは・・・表現のしようがありません。"sempre al tuo cor vicina... questo era il mio sogno..." "questo era"からやっとクレッシェンドの指示。それにしては"mio"が聞こえにくいですね。1点ト♯に下がっているのです。結局、やっと愛する人と踊れて恍惚としているのがテバルディの声に表れているのです。

その後のデル・モナコさん・・・。指示はないですけど、もうちょっとデリケートに歌った方が・・・折角のムードが台無し。ともかく、次のヴァッリーの歌詞。"ma un giorno m' hanno detto ch' ero odiata da te..."これには(continuando)「続けて」というト書きしかない。ちょっと1点音域の中途半端で、聞かせにくい箇所になっています。それにしては、この音域も響かせることができるテバルディですから、足音がうるさい中でも聞こえてきます。歌詞が歌詞なので、少々沈んだ調子です。

ハーゲンバッハはきっぱり否定。ですが、彼のト書きには(turbato, con calore, interrompendola)「動揺し、熱っぽく、彼女を遮って」とあります。ちょっと「動揺」は聞き取れない、堂々としすぎた歌ですね・・・。「熱っぽく」はありますが。結局、ここまででヴァッリーの本心を聞いて、彼は心の奥底に潜んでいた想いゆえになんとなく落ち着かなくなるのですね。

デル・モナコの歌はともかく、ハーゲンバッハは相当動揺したので、(結局彼女が好きだったのを自覚し始めるのです)賭けを始めたのを後悔するのですね。"No! Non vo’ più danzar!"これ以上続けるのはよくない、と。それに対するヴァッリー。また挑発・・・"Al mio labbro di rosa non giunge il labbro timido di bocca paurosa" (scherzosa, eccitandolo)「いたずらっぽく、彼をあおるように」あおるよう、かどうかは微妙ですが、余りに美声なので、これでグラグラしないハーゲンバッハはどうなんだろうと。

彼は負けを認めてしまうけれど、またヴァッリーは挑発。(よせば良いのに・・・)"Perché, allor, m' hai sfidata?"これはフォルテの指示。相当挑発的なんですね。オケも相当鳴っていますが、テバルディが声を張っているので、しっかり聞こえます。

こう来られると、彼も本気になる。賭けだから、というより、本音が出てしまうのですね。相当熱烈に迫るので、今度はヴァッリーの方が恐れる。"Ah! taci, taci!"は"sottovoce"「小声で」って・・・。こんなうるさい中では無理でしょう。しかも"Udirti più non ti vo'"もピアノの指示。「もう聞きたくないわ!」をピアノで言ってどうするのでしょう?"Tu menti! Tu menti!"でやっとフォルテ。「誓う」という彼に"Non giurar!"は(con impeto)「衝動的に」

テバルディの歌。"Ah, taci, taci!"は「小声」じゃありません。その後も声の強さはほとんど同じ。こういう場面で弱音にするのはやはりちょっと無理だったようですね。

その後。必死に信じさせようとするハーゲンバッハに決定的な言葉を突きつける。"No, ad altra fanciulla il tuo amore hai giurato."ここは(livida in viso)「顔を赤くして」のト書きなので、興奮気味になるのですね。これも中途半端な音域にしてはしっかり声が響いていますし、先ほどの透明で美しかった音色とは違い、暗い音色が混じってきます。

それには直接答えないで、ヴァッリーを責めるハーゲンバッハ。それに対する彼女の答え。"Scherno di te?" ここにも(colle lagrime agli occhi)「目に涙を浮かべて」とありますが・・・。この時代の男性達って、女は泣き虫だと決めていたようですね。テバルディは泣きを入れていません。むしろ、透明な音色に戻る。「彼を苦しめている」と言われて、「そんなはずはないわ!」とつい、本音が出る。"Non vedi che t' amo e in te rapita..."は"con passione"「情熱的に」の指示とフォルテ。 "vivo una nuova...vivo una nuova vita"1度目にはクレッシェンドの指示で、2度目には"poco stentando"なので、テンポを緩める。やはり、ごちゃごちゃした中で強弱を付けるのは至難だったようですし、テンポも緩んでいません。「踊りながら」なんていう場面は歌う場合は困りますね・・・。

ハーゲンバッハの"Ah, sempre mia!"の後に"Prendimi"というセリフが入らなければいけないのですが、音高が付いていない、本当の「セリフ」なので、聞こえません・・・。とにかく、ここでキスを許してしまうので、彼女の負け。彼女はまさか、「賭け」が行われていたとは知らないので、周りの連中が笑うのが理解できない。

それで、"Che dicon mai costoro? E perché ridon?"訳がわからないながらも、何か悪い予感がしたのでしょう。テバルディは声に暗い音色を付けます。(指示はありません)ゲルナーにほのめかされて、自分が恥をかかされたことを悟る。"Crudel vendetta! Ei m' ingannò!"ここは頭がフォルテで、次のフレーズがデクレッシェンドになります。ここはその通り歌っているばかりか、声に涙と悲しみの色を混じらせるテバルディ。自分は素直に本音を告げ、キスを許したのに、裏切られたのだから、当然です。ただ・・・ダンスの前の行いが悪すぎましたよね。

その後の村人の反応が冷たいのは、彼女が居丈高だっただけではなく、違う村の女だから、というのもあるのです。サッカーの試合ではないですが、「アウェー」状態だったということ。しかも態度が悪かったので、「いい気味」と思われてしまった。それがまた、プライドの高いヴァッリーにはこたえるでしょう。

結局、こともあろうにゲルナーと結託するほど血迷う彼女。"Di...Mi vuoi tu ancora?"はフォルテの指示。最後は2点ホから急に1点ホにオクターヴ下がる。強烈な声で、「怒っている」様子が声に出ています。待ってました、と言わんばかりのゲルナーの"Sempre!"に、少し間を置いて、"Io lo vo' morto!"ここには(sempre cogli occhi su l' Hagenbach e con voce ferma)「ずっとハーゲンバッハを見つめながら、しっかりした声で」しかも、(parlato)「語りで」の指示。テバルディ、十分「しっかり」言い渡しています・・・。恥をかかせたからと言って「殺す」?まあ、この人はプライドが高すぎる位なので・・・。でも、意外な結果になるのが次の幕。それは次回に。

 

次回は第三幕です。